夏を駆ける’24③【春日】~「準備野球」が春に結実、初の甲子園出場を視野に




「準備野球」が春に結実、
初の甲子園出場を視野に
【春日】(春日市)


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春の大会を堅守で制す
質量とも充実の投手陣

2017年と2019年の夏はベスト8。2021年、22年の夏もベスト16まで勝ち上がるなどここ数年は上位に顔を出す。県内の公立校では北部の東筑と双璧をなす存在だ。

春優勝の原動力となったエース前田

昨秋は準決勝で飯塚に1点差で敗れ九州大会にあと一歩届かなかったが、今春の福岡大会を制し1989年の創部以来、初めて県の頂点を極めた。初出場となった九州大会は初戦で佐賀北に競り負けたが、南部の第1シードとして夏を迎える。

春の大会では秋にもまして堅守が光った。エース前田歩三雄(3年)は130キロ台なかばの直球にチェンジアップ、スライダー、カーブなど多彩な変化球を低めに集める。5回戦の福工大城東戦は10安打を許しながら2失点に抑えて完投、準決勝の九州国際大付戦では2安打1点と絶妙の投球でチームを九州大会に導いた。

先発の一人として期待される大石

2019年は坂元創(九共大~NTT西日本)、2021、22年は飯田泰成(関西学院大)という絶対的エースを擁して上位進出を果たしたが、今年は前田以外にも計算できる投手が揃う。春は大石遥大~石原優透~前田と3年生右腕3人の継投でものにした試合も多かった。決勝までの7試合でわずか7失点。3点以上取られた試合はない。秋まで主戦を務めながら肩痛のため春は登板のなかった久保田温太郎(3年)も戦列に復帰し、投手陣は充実している。

八塚(やつづか)昌章監督は現役時代、内野手として活躍。途中、武蔵台での3年間を挟み春日で24年間指導を続ける

打線は長打こそ少ないがミート打法に徹し、犠打や盗塁をからめて得点につなげる。「秋の大会後は、低反発バットの使用を見据えてセンター返しを徹底させてきた」と八塚昌章監督。逆転勝ちが多いのも特徴で、序盤にリードを許しても中盤から終盤にかけて一気にひっくり返す力がある。

重厚な投手陣を中心とした守りは堅い。ただ、夏は他校もこれまで以上に打力を上げてくる。初の甲子園を勝ち取るには、春以上に打線の奮起が欠かせない。

翌日の練習メニューを前日配布
短い練習時間を「準備」で補う

エース前田は「カウントに関係なくどの球でもストライクがとれる」と制球力に絶対の自信をみせる。「立ち上がりの失点を減らして春夏連覇を目指す」

部員71人(うちマネージャー2人)の大所帯だが、過去には100人を超えた年もある。クラブチームや中学の野球部から春日に進んだ先輩の背中を追って入部してくる地元の中学生のほか福岡市、大野城市、筑紫野市など市外からの通学者も多い。

完全下校は19時30分。7限目まである日の練習時間は実質2時間に満たない。加えて多くの部員を抱える環境のなかで八塚監督が徹底しているのが、周到な事前準備だ。

「背中で引っ張るタイプ」と部員から信頼の厚い樋渡主将。「春は投手たちが頑張ってくれたが、夏は投手も疲れやすい。打線が打って助けたい」

練習が終わると、部員たちには翌日のメニューが配布される。そこには自分が何をすべきか分単位で細かく書かれているため、目的意識を持って練習に入ることができる。「試合でミスが出るのは仕方ない。ただ、試合に向けた準備は手を抜かずしっかりやりきる」というのが八塚監督の掲げる〝準備野球〟で、自らその先頭に立つ。

取材当日はキャッチボール、トスバッティングが終わると走者をつけた実戦形式のシート打撃が始まった。走攻守と複合的な練習ができることから練習メニューの中心となっており、フリー打撃は「新チームになってからは何度かやっただけ」という。

両翼93m、中堅で約120mとれるグラウンドがあるため練習試合の申し込みも多い。今春の九州大会に出場したチームの大半と対戦経験があり、初戦で対戦した佐賀北もその一校。県内の強豪相手にも、気後れすることはない。

練習の中心を占めるシート打撃練習

「共通理解」でチーム力向上
練習に取り組む姿勢を重視

「得点圏打率の向上が夏に向けたチームの課題」と田口副主将。「練習時間の短さを言い訳にせず、やればできることを証明したい」

練習時間は限られるが、八塚監督は部員たちを集めてアドバイスを送る時間は惜しまない。「ヒントを与えると自ら考え、行動に移し、成長していく。そういう生徒が多いので自分の考えをできるだけ伝えるようにしている。チームに共通理解があればうまくいくことも多い」。

例えばサードの守備の指導をする時も全員を集める。サードの動きを知ることで野手は三塁送球時にどこに投げれば捕りやすいか、走者はどういう走塁をすればセーフになる確率が上がるか、それぞれの立場に落とし込んでイメージを膨らませることができる。

3番を打つ五十嵐副主将はチームのポイントゲッター。「低く強い打球を打つことを心がけ、好機で1本打ちたい」

〝準備〟と〝共通理解〟は部員たちにも浸透している。センター田口昌之丞(3年)は「勝ち上がると観客や応援団も増え、フライの声掛けも聞きづらくなるはず。その準備として普段から大きな声を出すようにしている」。キャッチャー樋渡力紀(3年)とセカンド五十嵐綾人(同)からは「投手が打たれた時、マウンドに行って気持ちの切り替えができるような声掛けをしていきたい」と同じ答えが返ってきた。

技術・技量以前に、野球に取り組む姿勢を大切にし、その姿勢こそが結果につながるという信念。試合でミスをしたとしても、準備をしっかりした上での結果であれば甘んじて受け入れる潔さ。接戦に強さを発揮するのも、気持ちにブレがないからだろう。

九州大会を振り返って樋渡主将が「攻守交代のスピード、声出しの統一感、試合前後の準備と片付けの手際のよさが全然違った。自分たちもやってきたつもりだったが、まだまだと感じた」と真っ先に述べたが、この視点こそ春日の選手たちの野球観を象徴するものだ。

目的意識を持って練習にのぞみ、集中力を養い、その精度をさらに上げていこうと邁進する春の王者に、慢心はない。

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