19年間の苦境を超えて
この夏一気に突き抜ける
【嘉穂総合】(桂川町)
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昨夏健闘で高まる期待
森山氏着任で成長加速
2005年4月に嘉穂工・嘉穂中央・山田の3校が統合し「普通科総合コース」「農業食品科」「工業科」「情報科」の4つの学科を持つ県内唯一の総合型高校として開校した嘉穂総合。以来19年間、県内の3大大会(春夏秋)で挙げた勝利はわずか3勝。2016年夏を最後に白星から遠ざかる。
そんな同校が昨夏の初戦、優勝候補の九州国際大付と対戦し6回まで1-4と健闘した。最後は7回に4点を失って力尽きたが、7安打を放ち盗塁も一つ決め、2年生エースの中嶋竣は主砲・佐倉俠史朗(ソフトバンク)から三振を奪った。今春は初戦で福岡魁誠に逆転負けを喫したが福岡中央地区大会では稲築志耕館をコールドで下し、8年ぶりとなる夏の勝利に向けて着実に前進を遂げている。
そうした急成長の陰にあるのが、2023年4月に筑紫中央から異動してきた森山博志さんの存在だ。森山さんは三井、福岡工、糸島、筑紫中央で監督を歴任。三井では帆足和幸(西武→ソフトバンク)、福岡工では2008年春の九州大会を制した三嶋一輝(DeNA)や中島卓也(日本ハム)らの成長に携わった。嘉穂総合に着任後は副部長として山口椋也監督を支え「直接指導はせず、気づいたことは監督を通して伝える」姿勢でのぞんでいる。
森山さんの嘉穂総合への異動を知って「すごく心強く思ったし、興奮した」と振り返る山口監督は「指導者としての心得や練習メニューなど、部員たちより私の方がいろいろ教わっている」と笑顔をみせる。チームの指揮は山口監督が執りながら、バッテリーについては森山副部長に指導を依頼。九州国際大付戦での善戦にもつながった。今年4月には野球部OBの原田匠さんが部長として加わり、この3月まで審判員を務めてきた経歴を生かしてルール面の指導、精神的なサポート役を担う。
雑草の生えたグラウンドから出発
山口監督手製の外野フェンスも
部員数は25名(うちマネージャー2名)。女子部員も一人在籍し今は部員不足に悩まされることはないが、山口監督が2016年に赴任した時の部員はわずか9人。監督は講師が務めていたが異動が多く、定着しなかった。専用グラウンドはあったもののダイヤモンド内にも雑草がしげり、練習試合の相手が見かねて草取りを手伝ってくれたこともあったという。夏の大会後は部員が9人を割り、1年生が入ってくるまでの秋と春の大会は校内から助っ人を呼んで9人を揃えた。校内の野球経験者を誘っても断られ、中学をまわって受験の案内をしたものの1年目は希望者さえいなかった。
それでも山口監督は地道に勧誘を続けた。2018年からは夏の大会が終わっても9人を割ることがなくなった。2019年夏のチームからは、のちに独立リーグ・信濃グランセローズに入団する足立公樹(現・嘉麻市バーニングヒーローズ)を輩出。2020年に入部してきた1年生は10人を超えた。「それまでは部員に辞められては困るので遠慮もあったが、言うべきことをしっかりと言えるようになった」のもこの頃だ。
コロナ禍で練習ができない時期は、廃棄する学校のテントのフレームを使って手製の外野フェンスをつくった。2021年6月からは入部者の増加につながればと部のインスタグラムを立ち上げて情報発信を開始。原田部長は「自分が現役の時と環境が全然違う。ちゃんと高校野球をしている」と今の充実ぶりを語る。
山口監督が部の基盤を整え、これからというときに赴任してきたのが森山副部長だった。先述のように森山副部長は裏方に徹しているが、豊富な人脈を生かして強豪校との練習試合を組んでいる。この5月には昨夏甲子園に出場した創成館(長崎)や鳥栖工(佐賀)、2022年夏の選手権準優勝校・下関国際(山口)などと対戦。いずれも完敗だったが「技術、練習への姿勢などすべてにおいて意識が変わった」という。
昨夏の主力5人が健在
勢いに乗れば面白い存在に
戦力的には昨夏の主力5人が残る。九州国際大付戦で好投したエース中嶋竣は打たせてとる投球で成長をみせているが、その打球を確実に処理するだけの守備力が課題。練習ではシートノックなど守備に時間を割くことが多い。打線は正岡翔、竹上駿(以上3年)正岡翁(2年)の3人が中心。部員たちはプロテインやおにぎりによる体づくりにも余念がない。
チームの強みは「よい意味で怖いもの知らずで、物おじしないところ」と山口監督。昨夏佐倉から三振を奪った中嶋は、彼がプロ注目の選手であることを知らなかったという。森山副部長も「勢いに乗れば県大会に行く力は十分にある」と期待を寄せる。
「昨夏は県大会出場が目標だったが、それも無理やりといった感じだった。今年の目標は全国大会出場。ようやく『甲子園』というワードにたどり着いた」。山口監督はしみじみとそう語る。
同じ野球の世界で異なるキャリアを積んできた3人の指導者に見守られ、嘉穂総合ナインは過去19年間で挙げた白星の数を、この夏で一気に超えていこうとしている。
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