夏を駆ける’24②【戸畑】~強豪私立への「善戦」を「勝ち切る」に変える夏




強豪私立への「善戦」を
「勝ち切る」に変える夏
【戸畑】(北九州市)


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強打で北九州市長杯4強
俊足萩原が打線をけん引

春夏とも4回ずつの甲子園出場を誇る古豪も2005(平成17)年春、田中将大(現楽天)擁する駒大苫小牧に敗れて以来、聖地から遠ざかる。その年のチームで二塁手だった中村竜也監督が昨年4月に母校に赴任。昨夏は初戦で飯塚に敗れたが、その時の先発メンバーのうち5人が残る。

1番打者として打線を引っ張る萩原

昨秋は4回戦で再び飯塚に敗れ、春は初戦で九州国際大付に完封負け。4~5月にかけて行われた北九州市長杯では北筑、小倉工などの実力校を破ってベスト4入りしたものの、準決勝ではまたしても九州国際大付の前に屈し、強豪校の壁をなかなか破れずにいる。

それでも打線は北九州市長杯の4試合で37点をあげるなど力がある。けん引するのは1番萩原望安(3年)。50m5.9秒を誇る俊足にプロ・大学関係者が熱視線を送る。塁に出ると盗塁を果敢に仕掛け「失敗したのは、この1年間で1回だけ」(中村監督)。OBで同じ1番ショートだった藤野恵音(現ソフトバンク)に比べると細身だが、スタンドに運ぶパンチ力もある。中軸は確実性のある大殿昊生、強打の渡邊竜吾、本田颯多(いずれも3年)の右打者3人が並び、どの打順からでもチャンスをつくることができる。

中村監督は戸畑~神奈川大を経て、教員の道へ。戸畑着任以前は育徳館、若松などで野球部長、監督などを務めた

投手陣は右サイドハンドの渡部嘉人(3年)が春から主戦を務める。直球で内角を突きスライダー、チェンジアップを低めに集めて打たせて取るのが持ち味。「上手から横手に変えたことで、球が打者の手元で動くようになった」と本人も手応えをつかんでおり、左腕・猿渡快(3年)と共にマウンドを守る。

課題は守備。秋の大会、北九州市長杯とも失策から失点を重ねて試合を落とした。ムダな失点をなくすことが上位進出の条件といえそうだ。

OBの中村監督が就任2年目
成長に不可欠な主体性

完全下校が20時のため、平日の練習は17時から19時過ぎまで。部員数は63人(うちマネージャー9人)。週に一度トレーナーからフィジカル面のアドバイスを受け、不定期ではあるが外部コーチのサポートを得ながら中村監督が指導に当たる。週末の練習試合や公式戦では野球部OB会の竹本勉幹事長が駆け付け、裏方として支える。

中軸打者として、捕手としてチームを引っ張る本田主将。「残り1カ月でチームの団結力を高めて大会にのぞみたい。昨夏の悔しさを晴らし、優勝を目指す」

取材当日は、3年生を中心とする主力メンバーがシート打撃形式の守備練習、他の野手は打撃強化組(ティー打撃)と体力強化組(筋トレ)にわかれてそれぞれの課題に取り組んだ。一、三塁を想定した守備練習では「内野ゴロは確実に併殺をとる」がこの日のテーマ。打席に入る部員たちも打撃はもちろん、セーフティバントや盗塁などそれぞれの持ち味をアピールする場になっている。最後に行う15分ほどの個別練習では、中村監督も各部員のもとに足を運んでアドバイスを送る。

エース渡部。「厳しく内角を突けるよう制球力を磨いている。苦楽を共にしてきた仲間たちと甲子園に行きたい」

多数の部員に少数の指導者。その環境で求められるのは部員たちの主体性だ。全体練習のあとは部員間のミーティングを行うが、中村監督の助言・指摘を受けたあと再び話し込むことも多い。下級生の指導には3年生もあたり、部員一丸となってレベルアップに取り組む。試合中も相手投手の情報共有・分析などを選手たちが進んで行う。

中村監督が中学生の視察に出向く時間も十分に確保できないが、それでも例年多くの入部者を迎える。当時小学生だった中村監督も、2000年にセンバツ出場したチームに憧れて戸畑野球部の門を叩いた。「地域の子供たちに『戸畑で野球をしたい』と思ってもらえるようなチームをつくり、結果を残していきたい」と語る。

薄暮のなかで個別練習を行う戸畑の部員たち

急ピッチで守備力を強化中
ノーシードながら怖い存在

中村監督が目指すのは「バランスとれたチームづくり」。夏に向けた課題は、守備力の強化とはっきりしている。

北九州市長杯の九州国際大付戦では4失策が響き、8点をとりながら10失点で敗れた。普段あまり細かなことは言わない中村監督も、この試合のあとは課題を明確かつ具体的に指摘。数ある課題の中の一つという認識だった守備が、最大の強化ポイントとしてチーム内で共有されるようになった。5月以降はシート打撃形式の守備練習を増やし「とれるアウトを確実にとる」ことを徹底している

3番大殿は「安定した打撃ができる選手」という監督評。「大会では首位打者を目指す」と意気込む

打撃の話になると、選手たちの目に力が宿る。「走者三塁の場面では、必ず打てると自信をもって打席に入れている」(大殿)「低反発バットの導入を見越してウエイトトレーニングを積んできたので、打球速度が落ちるといった影響は感じない」(本田)など言葉の端々に自信がにじむ。

前チームから出場しているメンバーが多いこともあるが「試合で緊張しない選手が多い」(中村監督)ことも強みの一つ。夏はノーシード、無欲でぶつかっていける。打力のあるチームが福岡の夏でもたびたび大番狂わせを起こしており「大物食い」の条件は満たしている。

「強豪私立を相手に健闘するだけでなく、勝ち切らないといけない」。チームとして掲げてきた目標を実行に移す舞台が、近づいている。

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