夏の注目校紹介⑥【福岡大大濠】~偉大な先輩たちを越え 34年ぶりの夏舞台へ




偉大な先輩たちを越え、
34年ぶりの夏舞台へ
【福岡大大濠】(福岡市)

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好投手そろう「投手王国」
剛柔使い分ける多彩な攻撃

松尾尚哉(3年)

昨秋の福岡大会は3位、今春は秋に敗れた西日本短大附を破って優勝を果たした。続く九州大会でもセンバツ出場校の海星(長崎)にコールド勝ちするなど4強入り。総合力が高く、夏も優勝候補の一角に挙げられる。

この10年だけを見ても山下舜平大(オリックス)、三浦銀二(DeNA)、濱地真澄(阪神)、坂本裕哉(DeNA)ら好投手をプロに送り込んでいる同校には、今年も逸材がひしめき合う。140キロ超の直球に変化球も多彩な松尾尚哉(3年)をはじめ、同じ右本格派の鯉川晴輝(3年)、直球・変化球にまとまりのある柴田獅子(2年)、左の軟投派で制球のよい小峰央路(2年)など、いずれも他校ならエース級という投手ばかりだ。春の九州大会では4人が先発・中継ぎ・抑えと目まぐるしく入れ替わった。例年のように絶対的エースが不在で八木啓伸監督も「今年は複数の投手で継投していく」と語る。

鯉川晴輝(3年)

打線は1年時から主力として活躍する3番・黒田悠真(3年)、4番・藤田悠太郎(3年)が軸。黒田は昨夏13打数8安打と打ちまくった左の好打者で、外野の間を破る鋭い当たりを飛ばす。藤田は上背こそないもののパンチ力があり、特に今年に入ってから左方向への飛距離が伸びた。下位にはここぞという場面で力を発揮し、一発の魅力もある龍優仁(3年)が控える。1番の大神浩郎(2年)や黒田ら足を使える選手も多く、送りバントなど小技にも長け、攻撃のバリエーションも幅広い。

夏の大会ではここ数年、上位に進出しながら打線が抑え込まれて敗れるケースが多く、好投手の攻略が課題。例年にもまして打線が充実している今年はその壁を越える狙えるチャンスといえる。

守備がチームづくりの根幹
自主性と個を重視した指導

4番で捕手・主将としてチームを引っ張る藤田。「各投手のよさを引き出せるリードをしていきたい」

ナイター設備や人工芝を備えた福岡市西区の専用球場で平日は午後5時から8時まで練習を行う。土日の練習試合には県外校の来訪も少なくない。部員55人を八木監督のほか3人のコーチで指導する。

例年「甲子園の決勝で1-0で勝つこと」をチームづくりの根幹に据える八木監督のもと、練習時間の半分以上を守備に割く。様々なピンチの場面を想定したゲームノックでは試合勘を磨き、八木監督が重視する「主体性」を養う。セカンドの黒田は「試合では、状況に応じて外野を含めたポジショニング、次のプレーへの確認などを選手間で常にしている」というが、それもこうした練習により習慣づけられたものだ。

俊足巧打で攻守の要・黒田。「負けていても逆転する雰囲気のあるチーム。夏は粘り強く戦いたい」

食トレなども特に部としての決まり事はない。「なぜ体を大きくしないといけないのか、それが本当に自分に必要なのか」を一人一人が考えて判断し、実践している。入学時より体重が10キロ増えたという鯉川の場合、食事や体づくりに関心を持ったことからコーチに助言を仰ぎ、自らも勉強してプロテイン摂取などを行い、球速が140キロ近くまで伸びたという。

「個を大切にし、長所を伸ばしていく」のも八木監督のスタイルだ。練習中だけでなく、グラウンド外でも個別面談の時間を設けてそれぞれの目標や夢などを聞くことに努めている。その上で、個々の思いとチームの構想を「うまくマッチングさせていくようにしている」という。「目指すものがあるのなら、その思いに火をつけ、そこにうまく導いていけたらと考えている。そのやり方は一人一人違うので、いつも模索しています」。

「夏に勝つ」を目標に
個々が課題克服に励む

スライダー、カーブ、フォークと多彩な変化球を持つ松尾だが「いちばん自信があるのは直球。この球で押していきたい」

層の厚い投手陣で中心になるのは3年生の二人だ。松尾は新チームではエース候補と目されていただけに、「今年の大濠には柱となるエースがいない」と言われる現状に発奮する。「秋春とも勝負処で弱気になってしまい、大事な試合で打ち込まれた。強気の投球で、夏は自分がチームを助けたい」と力を込める。

「試合の流れを変えられる投手」(藤田捕手)として期待される鯉川は「冬の間に体の使い方を見直し、球質が上がった」と胸を張る。課題だった精神面も「監督のアドバイスで強い気持ちを持てるようになり、ピンチでも失点しなくなった」。冬は投手陣だけで自主トレに取り組むなどその結束も固い。「打撃陣は必ず点を取ってくれる。一人一人が任された場面を抑えれば、結果はついてくる」と投手陣の思いを代弁する。

鯉川は、目標にするOBの山下舜平大が得意とするフォーク、数種類のカーブを習得。「どの球も制球には自信がある」

その打線の核となるのが4番藤田だ。「冬の練習では(バットの芯で球を捕える)コンタクト率を上げることを意識してきた」ことでさらなる打撃向上につなげた。「4番として、皆が打てない時に打ちたい」と意気込む一方で、「今年のチームには飛び抜けた選手はいない。1~3年の全部員で戦っていく」と全員野球を強調する。

センバツには2017(平成29)年、2021(令和3)年と出場して8強入りしながら、夏は1989(平成元)年以来、出場がない。「夏に勝つことはチーム全体の強い思い」と八木監督。練習では、暑さに負けない体力づくりにも余念がない。

プロ入りした偉大な先輩たちの力をもってしても越えられなかった夏の壁を、チーム一丸となって34年ぶりに乗り越えていく。

 

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