秋春の悔しさをバネに
打倒・私立に燃える夏
【東筑】(北九州市)
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夏に強い伝統校
ノーシードで台風の目に
春3回・夏6回の甲子園出場を誇る古豪。平成以降、公立校が夏の福岡大会を制したのは二度(1996年、2017年)あるが、そのいずれも青野浩彦監督が率いる東筑だ。とにかく夏に強い。異動で東筑を離れていた青野監督が復帰した2016(平成28)年以降は6大会で県大会に4度出場し優勝、ベスト4、ベスト8が一度ずつ。昨夏は優勝した九州国際大付に準々決勝で敗れたが、12安打を放ち互角に打ち合った。
前チームの主力が抜けた今年のチームは秋春とも北部大会で敗れたが、その相手は秋が飯塚、春は九州国際大付でいずれも接戦だった。5月の北九州市長杯・準決勝で再び対戦した九州国際大付戦は延長タイブレークにもつれこんだ末の惜敗。北部の「2強」と互角に渡り合う力があり、ノーシードで迎える夏は台風の目となりそうだ。
伝統の強打は今年も健在。3番尾形篤志(3年)、4番森木悠登(3年)を中心にパワーのある選手が多く、流れを掴むと連打でビッグイニングを作る。投手陣は130キロ後半の直球が武器の尾形、変化球と直球をコーナーに集める安田創磨(2年)の右腕二人が中心。春の大会後、故障で離脱していた尾形がどこまで調子を戻してくるか。
ノーシードだけに、組み合わせによってはいきなり九州国際大付や飯塚などとの再戦もあり得る。「私立校に勝つには投手が抑えるのが必須条件。接戦に持ち込み、先に点を取って焦りを誘えれば勝機も見えてくる」と青野監督。自慢の打線を生かす展開に持ち込むためにも、投手を中心にどれだけ失点を抑えられるかがカギとなる。
継続的な筋トレで打力向上
部員の自主性を尊重
他の進学校と同様、平日の練習開始は早くて午後4時過ぎから。7限目まである日は午後5時から始まり、午後7時すぎには練習を終える。グラウンドはラグビー部、サッカー部などと共用のため、全面を使えるのは週3日だけ。残りの2日は内野ノック、バックネット側に張った巨大ネットに向かってのティーバッティング、ウエイトトレーニングに励む。
例年、強力打線を築き上げる東筑。青野監督は「特に変わった練習はしていない」と言うが、グラウンドが使えない火曜日と木曜日に時間をかけて行うウエイトトレーニングが強打を生み出す要因となっているのは間違いないだろう。グラウンド使用に制限があるハンデを「年間を通して筋力が落ちない体づくり」に転換しているのだ。専属のトレーナーがいるわけではないが「今はインターネットで必要な情報はいくらでも収集できる」と意に介さない。年に一度招いている食の専門家の話を聞いてプロテインを摂取するなど食トレを行う部員もいるが、部として取り組んでいるわけではなく個々の判断に委ねている。
練習はよい意味で緩く、自由だ。限られた時間を有効に使うため、フリーバッティングを行う日はグラウンドに出てきた部員から順に、次々と打ち始める。練習中に青野監督が口出しすることも少ない。言うべきは言うが、基本的に部員の自主性に任せている印象だ。「結局は意識の問題だと思うんです。145キロの球を投げる投手を打ち崩して勝とうと本気で思えば、何をすればいいかを自分たちで考え、実行するはず」。自分たちで考える力がないチームは、上に行くのは難しいというのが青野監督の経験則だ。
「少なくとも2、3年生には平等に練習の機会を与えること」が数少ない練習へのこだわり。夏のベンチ入りメンバーもギリギリまで絞りこまず、大会直前まで部員たちは同じメニューをこなす。
チームは上り調子
私立に勝つことを意識した練習
5月以降の練習試合でも打線は好調を維持しており、投手陣の調子もまずまず。5月末に行われた小倉高との定期戦では17―0で大勝するなど「昨年よりも手応えはあるくらい」と青野監督。
それでも部員たちは秋春の悔しさを忘れていない。中嶋輝成主将(3年)は「秋も春も攻撃面では好機に一本が出なかった。犠牲フライやボテボテのゴロでもいいから、とにかく1点をもぎとることを意識している。守りでは四球やミスが失点につながったので、それをなくすことが課題」と強調すれば、4番の森木も「秋も春も勝てるチャンスはあった。私立校相手ではチャンスも限られるが、夏はそこで一本を出したい」と闘志を燃やす。
青野監督は「高い身体能力とパワーを前面に押し出してくる私立校と渡り合うために必要なのは、強い打球を打てる力、確実な守備、投手は制球力とスピードといった、すごくシンプルなこと。そうやって接戦に持ち込んで先に点を取り、慌てさせないと勝てない」と語る。
前回優勝した2017(平成29)年も春は準々決勝でコールド負け。下馬評は高くなかったが、夏は一気に頂点を極めた。他校のマークが緩んだ年の東筑は、やはり怖い。
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