夏の注目校紹介➂【近大福岡】~培った「自律心」で一気に頂点に駆け上る




培った「自律心」で
一気に頂点に駆け上がる
【近大福岡】(飯塚市)

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昨秋は創部以来の最高成績
急上昇中の新興勢力

東福岡戦で2打席連続本塁打の宮本翔生(3年)

前身の嘉穂女子高校が1965(昭和40)年に近畿大学の系列校となり、1998(平成10)年の男女共学化で近畿大学附属属福岡高校に改称。柳川が1987(昭和62)年夏の福岡大会で準優勝した時の4番打者だった肘井利一氏が2005(平成17)年に監督に就任し、翌年には県大会に出場した。その後、肘井監督は近大産業理工学部硬式野球部に移ったが2019(平成31)年4月に復帰。昨夏は県大会で筑陽学園と1点差の接戦を演じた。秋は創部以来最高の県ベスト4に進出し、センバツ21世紀枠の県候補校にも選ばれるなど新興勢力として注目を集める。

昨秋は準決勝までの全試合で5点以上を挙げるなど得点力がある。出塁率の高い岩屋大(3年)が出て長打力のある河内温也(3年)、河村悠太郎(2年)、宮本翔生(3年)の中軸で得点につなげていく。昨秋準決勝の東福岡戦で宮本が2打席連発。準々決勝の福岡戦では岩屋以下の5連打で4点差を追いつくなど、好機に畳みかける集中打もある。投手陣は2年生の田邊周と宮本の2本柱。田邊は130キロ前後の直球に90キロ台のカーブ、スライダーなど多彩な変化球を駆使し、宮本は長身を生かした力のある直球が持ち味だ。

故障者が出てベストオーダーが組めなかった春の大会は3回戦で敗退したが、5月の関西遠征では春季府大会で大阪桐蔭を破った金光大阪をはじめ天理(奈良)、樟南(鹿児島)など強豪校から勝利を重ね、自信をつけた。6月にかけては大分商、海星(長崎)とセンバツ出場校の胸を借り、チーム力の底上げを図っている。

地元出身者が中心
短い練習時間で守備を強化

取材当日は、庄内野球場での練習。午後5時30分過ぎに始まり、午後8時前まで行われた

38人いる部員は1名を除いて筑豊地区(飯塚・直方・田川市)出身。「家族との時間を大切にしてほしい」という肘井監督の方針もあり、全員が自宅通学だ。同じ飯塚市には甲子園2度出場の飯塚高もあるが、同校には「近大系列という環境に魅力を感じて入学してくる中学生が多い」という。

校内には専用グラウンドがないため、練習は近隣の市営庄内野球場、県営筑豊緑地野球場、大学のグラウンドなどを借りて行う。平日の練習は授業終了後の午後5時過ぎに始まり、完全下校時間である午後8時前には終了。土曜日も午前中は授業があり火曜日は休養日に充てるため、練習時間も決して長いわけではない。

練習では主力組がシートノックを受けている間、控え組は白飯やプロテインを補給する「食トレ」を行い、主力組のノックが終わると入れ替わる。2021(令和3)年秋の新チーム発足後に白飯を練習前後や練習中に摂るようになり、今春からは摂取を個人に任せていたプロテインを部で用意している。重富義景副部長は「(プロテイン摂取の)効果はまだまだ」と控えめだが、2、3年生は秋に比べて体がひと回り大きくなった印象だ。

肘井利一監督

「打力をつけるのは容易ではないが、守備は鍛えた分だけ成長する」(肘井監督)という考えから、普段より1時間早く授業が終わる木曜日を打撃練習に充て、それ以外の日は守備練習に時間を割く。シートノックの後は実際に走者を置いたゲームノックで個々の判断力を磨く。ミスが出ればその原因を考え、同じミスを起こさないことを重視する。

そうした取り組みが実を結んだのが昨秋だった。肘井監督は「ミスを最小限で食い止めることができ、運を呼び寄せることができた。小さなこと、当たり前のことを徹底することが、ようやくこの数年で浸透し習慣化してきた」と語る。

凡事徹底の大切さを胸に
狙うは優勝

肘井監督は11年間、大学野球部で監督を務めるかたわら、学生の就職支援の実務に当たってきた。企業経営者や採用担当者と話をする中で「社会に出て通用する人間づくり」の必要性を痛感し、その時の経験が現在の指導のベースになっている。自分で考え、判断し、行動に移す「自律心」を野球を通して身に付けていく。それが基本方針だ。

今年のチームは「3年生を中心に自律できている部員が多く、雰囲気的には大学の野球部に近い」と評価する。その中でもキーマンとして挙げるのが捕手の門司侑大(3年)だ。部内の「学習係」リーダーとして試験前の学力強化や試合後の課題提出などで部員に積極的な声掛けを行う門司は、守備の要としてリーダーシップが期待される。「毎日声を出し引っ張ってくれたキャプテン、支えてくれたマネージャー、保護者の皆さんや先生方、先輩たち・・皆で喜びを分かち合えるように最後まで一球に真心を込め続けたい」と決意を語る。

普段の生活も含めて凡事を徹底し、準備を怠らず、自分たちで的確な状況判断ができるチームへと成長した近大福岡。主将の上野蓮央(3年)は「秋の経験を自信にして冬を越し、全ては夏に優勝するためにやってきた。ケガで選手としての道を断念した仲間、スタンドで応援してくれるチームメイトの想いを背負い、全力で戦いたい」とナインの思いを代弁する。

創部以来初となる「夏の県大会1勝」はあくまで通過点。培った自律心で、一気に頂点を目指す。

 

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