進化を続ける「福高野球」
強豪私立の壁に挑む
【福岡】(福岡市)
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文武両道の進学校が
南部屈指の強豪に
1921(大正10)年創部の伝統校。1983(昭和58)年夏の福岡大会では準優勝、甲子園まであと一歩と迫った。その後は県大会に届かない時期が続いたが、同校野球部OBの小森裕造氏が2012(平成24)年秋に監督に就任。同じく同校野球部OBである森谷史浩部長とのコンビで徐々に力をつけてきた。
2020(令和2)年夏は選手権福岡大会の代替大会「がんばれ福岡」で山下舜平大(現オリックス)を擁する福岡大大濠を破って福岡地区で優勝。翌年には井﨑燦志郎投手がソフトバンクに入団し、同校から2人目のプロ野球選手が誕生した。前年のチームも秋春と県大会に出場するなど、南部の公立校では屈指の実力を誇る。今年のチームも昨秋は県ベスト8。春もパート決勝まで勝ち上がり、2年連続でシード校として夏を迎える。
これまでは堅守をバックに勝ち上がることが多かったが、今年は同校OBの兄を持つ松尾蒼、井﨑暁志郎の2年生コンビが練習でも大きな当たりを飛ばし存在感を放つ。3番ショートで、リリーフもこなす主将の三好雄大(3年)はチームの要。外野の間を鋭く破るシュアな打撃が目を引く。投手陣は廣瀬裕一(3年)から三好への継投で追撃を絶つ。廣瀬は右サイドハンドから直球・スライダーをコーナーに集めて打たせて取るのが持ち味。右オーバーハンドの三好は制球力を武器に、テンポのよい投球を見せる。
コンスタントに上位進出を果たしてはいるが、強豪私立校に阻まれてベスト8止まりが続く。その壁を乗り超えることがここ数年の課題となっている。
日々の目標を「見える化」
主将を中心に練習を主導
県内有数の進学校。完全下校が午後7時30分のため、練習時間は午後7時までと限られる。その日の練習内容は主将、副主将が中心となって考え、昼休みに小森監督に報告。「なぜその練習が必要か」も含めて話し合いながらメニューを決め、グラウンドに設置されたホワイトボードに書き込んで部員と共有する。他にも部員一人一人の目標を書き込んだホワイトボードもあり、やるべきことを「見える化」している。
ゲームノックでは、意図の不明確なプレーが出ると練習をそのつど止めて確認する。連携プレーであれば返球した外野手、その送球をカットした内野手、カットの指示を出した捕手などが、直前のプレーを検証し、改善点を話し合う。グラウンドが荒れてくると気付いた部員がタイムをかけ、トンボでならしてからノックを再開する。
こうしたことは以前は小森監督の指示の下で行われていたが、ここ数年は部員たちが率先して取り組み、一つの「伝統」として定着してきた。
練習方法も小森監督の筑波大での経験などを生かしながら試行錯誤を重ね、効果があるものは残し、いまなお進化を続けている。
例えばチーム内には「打撃」「走塁」「内野」「外野」「トレーニング」などの係が置かれ、各リーダーが試合などから課題を見出し、練習メニューに組み込んでいく。もちろんチーム力を高めるための取り組みだが「彼らも社会に出て、いずれ責任のある立場に就く。そうした時のためにも、自ら考え、意見を持ち、発言する習慣を身に付けてほしい」(小森監督)という思いも込められている。
レベルの高い投手から
いかに点を取るか
例年に比べて打力のあるチームだが、勝ち上がるごとにレベルの高い投手と対戦し、思うような打撃ができなかった。そのことが送りバントや進塁打、確実に一つのアウトをとる大切さを確認する機会となり、練習に反映させてきた。三好主将は「実戦形式の練習を通して、1点をもぎとる攻撃、次の塁を狙う走塁、1点を与えない守備を磨いてきた」と胸を張る。
体力の強化にも余念がない。冬場に力を入れてきた体幹・ウエイトトレーニングを練習メニューに改めて組み込み、練習の合間におにぎりを頬張るなど、厳しい夏の戦いを乗り切るためのパワーとスタミナをつけることを意識している。
接戦になれば廣瀬―武藤大透(2年)のバッテリーの投じる一球一球が、試合の行方を左右する。「自分には絶対的な決め球はないので普段から武藤と配球や投球のテンポなどについて話し合い、精度の高い投球を目指している」と廣瀬が言えば、小森監督も「各打者にどの球が有効かを見極めることができるか。打者との駆け引きがポイントになる」と武藤を試合のキーマンに挙げる。
何度も書き換えられてきたホワイトボードの「目標」の欄には今、「甲子園出場」の文字がひときわ大きく書き込まれている。目的と目標を明確に掲げ、1日1日を紡いできた49人の集大成となる夏が、いよいよ始まる。
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