【観戦記】九国大付2-1久留米商(選手権大会5回戦)




◇九国大付2-1久留米商(選手権大会5回戦)

久留米商の先発・中島の前に沈黙を続けてきた九国大付が9回二死から逆転サヨナラ勝ちを決め、ベスト8進出を決めた。

▼5回戦(20日・北九州)〔試合記録
久留米商 000 001 000=1
九国大付 000 000 002x
=2
【久】中島(昴)→新原
【九】田端

1点を追う九国大付は9回裏一死から4番佐倉が中前打で出ると、続く白井も左前打で続き一死一、二塁。浅嶋は中飛に倒れて二死となったが、ここで登板した久留米商の2番手・新原から7番三宅が右前打を放って同点に追いついた。なおも二死一、二塁から代打秀嶋がファースト左を破り、白井がサヨナラのホームを踏んだ。

9回裏 九国大付 二死一、二塁 三宅が同点の右前適時打を放つ

先制したのは久留米商。6回、7番中村(陽)がセンター前に落ちるチーム初安打を放つと、中村(有)が送って一死二塁。中島は三振に倒れたが、1番新谷が左越え二塁打を放ち、中村陽が生還した。

九国大付は4回、2番隠塚が四球で出塁すると続く山口の一ゴロ(ヒットエンドラン)で二進し、佐倉の三塁前内野安打で一死一、三塁と先制機を迎えたが、白井が三振、浅嶋は遊飛に倒れた。1点を追う6回は一死後、隠塚の遊内野安打、山口死球で一死一、二塁としたが、佐倉がニゴロ併殺打に倒れ無得点。走者を出しながら3つの併殺を喫するなど苦しい試合となったが、最後に巡って来たチャンスを生かして劇的な勝利を掴んだ。

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九国大付・田端

九国大付の2年生左腕・田端、久留米商の長身右腕・中島。満を持して今大会初めて先発のマウンドに上がった両エースが、序盤から素晴らしい投球を見せた。

田端はキレのある130キロ台前半の直球(この日最速137キロ)にチェンジアップ、スライダーを交えながら緩急自在の投球で、5回まで一人の走者も出さなかった。15のアウトのうち7個を三振で奪い、久留米商の打者に自分たちのスイングをさせなかった。

久留米商・中島

中島も長身から投げ下ろす130キロ台(同135キロ)の直球、鋭く落ちるスライダーを低めに集め、強打の九国大付打線を沈黙させた。2回は佐倉、白井の中軸をスライダーで空振り三振、3回は三宅、下川を外角直球で見逃し三振に仕留めるなど3回まで5奪三振。4回は一死一、三塁と初めてピンチを迎えたが、白井には内外角を直球で攻めながら最後は切れ味鋭いスライダーで空振り三振、浅嶋もスライダーで遊飛に打ち取って切り抜けた。

試合が動いたのは6回。久留米商は中村陽がセカンドとセンターの真ん中に落ちるヒットでチーム初出塁を果たすと、中村有が送り中島三振のあと、トップに戻って打席に新谷。前の打席では左飛に倒れていたが、悪くない当たりだった。フルカウントから2球粘った後、新谷は高めに入って来た直球を見逃さなかった。打球はレフトフェンスを直撃、先制点が久留米商に入った。

6回表 久留米商 二死二塁 新谷が左越え二塁打を放ち先制

その裏、今度は九国大付が一死一、二塁のチャンスを作り、打席には4番佐倉。中島は外の直球でストライクを取ると、スライダーを挟んで再び外角直球を投じ、4-6-3の併殺打に仕留める。一塁ベースを駆け抜けた後、がっくりとうなだれる佐倉。久留米商が勝利に向けて歩みを加速させた。

だが田端も踏ん張る。7回表の久留米商を三者凡退に抑えて反撃を待つ。7回裏、九国大付は5球で攻撃を終了したが、中身は濃かった。白井の一打は遊ゴロは、強い当たりだったことからショート新谷が少し待って取る形となり間一髪のアウト。浅嶋も直球を捕らえたが深く守っていたライトの正面をつき、三宅はレフト左に合わせていったが、柿原がランニングキャッチ。いずれもヒットと紙一重の当たりだった。

8回裏、九国大付は一死から田端が内角のスライダーをうまく腕を畳んでライト前へ。田端は3回にも低めのスライダーについていき、投手足元を破る中前打を放つなど、打撃センスも感じさせる選手だ。宮崎はフェンス際まで伸びる左飛。隠塚も強打を放ったがサード正面。確実に中島の球をとらえながらも久留米商の守りも堅く、得点につながらない。

9回表、田端は久留米商の3~5番を三者連続三振に打ちとる。柿原は外角見逃し、今村は高めの136キロの直球で空振り、津川には右翼に大きなファールを打たれたが最後は135キロの高め直球で空振り三振。狙って取ったような三振で最後の攻撃に弾みをつけた。

9回裏、先頭の山口は初球を三塁線に痛打、しかしサード川添が驚異的な反応を見せて抑えると、一塁には確実にワンバウンド送球。これで決まったと感じさせる、大きなプレーだった。続くのは4番佐倉。この日はここまでいいところがなかったが、変化球で追い込まれながらも最後は直球をセンター前にはじき返したのはさすが。5番白井がフルカウントとなったところで、九国大付ベンチは佐倉に代走・藤木を起用。いよいよ勝負をかける。白井は3球粘った後、ショート左を破るヒットで一、二塁とし、追い上げムードが高まるが浅嶋は中飛で二死。

久留米商・新原

ここで問題のシーンが登場する。久留米商ベンチは中島に代えて、リリーフに右サイドハンドの新原を送りこんだのだ。あと一人打ち取れば勝利というタイミングでの起用に、ざわめく球場。確かに終盤、九国大付打線は確実に中島の球をとらえてきていたし、スライダーの切れも鈍くなっていた。それに過去3試合、新原はリリーフとして登板している。

ただ、現実は残酷だった。1年生ながら九国大付のレギュラーとしてスタメン起用されている三宅は、この場面でも初球からスイングをかけていく積極性があった。ファールのあとの2球目、外角低めの悪くない球だったが三宅はこれを叩き、打球は悲鳴と歓声が交錯する中で一・二塁間を抜けていく。二塁から藤木が俊足を飛ばして三塁を蹴ると、ライト津川も懸命にバックホームするが送球は三塁側にやや逸れ、藤木が砂塵を上げて無人のホームにすべりこんで同点。

9回裏 九国大付 二死一、二塁 秀嶋の一塁強襲ヒットで二塁から白井が生還、サヨナラ勝ち

ここが勝負処とみた九国大付は右の下川に代えて、左の秀嶋(2年)を代打に起用する。秀嶋は春の大会では2番を打っていた選手。スリーボールから1球見送り、5球目を引っ張るとファースト左へのゴロ。今村が飛びついて差し出すグラブをはじいて打球がライト前に抜けていき、白井がサヨナラのホームに滑り込んだ。

中島を続投させていれば抑えていたか。それは誰にも分からない。試合終了後、ベンチ前で最後まで立ち上がれなかった新原だったが、打たれた球は決して甘い球ではなかった。むしろ、あの重圧のかかる場面で腕をよく振って投げていたように思う。9回一死と追い込まれながら佐倉・白井という甲子園を経験した百戦錬磨の二人がチャンスを作り、若い2人の選手が得点に結びつけた集中力、執念は九国大付の底力というものだろう。

少しでも隙が生じれば、一気に畳みかける力があることを示した土壇場での九国大付の攻撃。そしてそれは、そんな相手を向こうに回して紙一重のところで失点を防いできた中島の実力もまた、証明した。

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