夏を駆ける’25➁【希望が丘】~青年監督と目指す 新たな野球スタイルの確立




安定感ある投手陣に堅守
ショート長﨑が攻守の要

1968(昭和43)年に九州電機学園として開校した中間市の私立校。1998(平成10)年に希望が丘に校名を変更した。パリ五輪卓球女子シングルスの銅メダリスト・早田ひなが所属した卓球部のほか、相撲部も全国区の強豪として知られる。

野球部は2015年夏と秋の県8強が最高成績だったが、2023年にエース江越元樹(現・折尾愛真短大)を擁して春夏とベスト4に進出した。そのチームを率いた松崎雄太監督に代わり昨年8月、東海大福岡が2017年にセンバツで8強入りしたチームで主将を務めた大久保朋副部長が監督に就任。いきなり秋はベスト8入り、春もベスト16まで進んだ。

最速145キロの直球が武器のエース野口

投手を中心とした守りのチームだ。140キロ超の速球が武器のエース野口裕希(3年)をはじめ、ブレーキの利いたスライダーが持ち味の渡邊佑大(2年)、制球のよい井上翼(同)など右投手が安定している。秋は故障で登板のなかった野口は春も終盤限定のマウンドとなったが5回戦の東海大福岡戦で自己最速の145キロを計測。渡邊もここにきて球速が135キロまで上がるなど成長著しい。夏の大会も渡邊、井上で試合をつくり、最後は野口に託すことになりそうだ。

主将の長﨑は攻守の要。「これまでの大会ではミスが負けにつながった。足元をすくわれないよう気を引き締め一戦必勝を目指す」

その投手陣を堅守で支える。1年夏からレギュラーとして出場し、軽快なグラブさばきと強肩で鳴らすショート長﨑詠音(3年)、打球判断にすぐれ守備範囲が広いセンター松本蓮(2年)を中心にスキがない。攻撃では足を積極的にからめ、秋は5試合で25個、春は3試合で13個の盗塁を記録した。打線は長﨑、小串魁人(3年)、仲一晟(2年)の3人がポイントゲッター。いずれも低く強い弾道で外野を抜く当たりを飛ばす。

大崩れしない試合運びができるのが強み。大久保監督は「リードして野口につなぐ展開に持ち込めれば、強豪が相手でも十分やれる」と継投に自信をのぞかせる。

豊富な練習メニューを用意
個々が課題克服に取り組む

大学卒業後は一般企業への就職を予定していたという大久保監督。恩師の勧めもあり2年をかけて教員免許を取得し指導者の道へ。2024年4月に希望が丘へ赴任した

同校では、総合学科のうちスポーツ系列の生徒は5・6限目が選択競技(卓球・サッカー・駅伝・相撲・硬式野球)となるため、野球部の練習は実質的に14時から始まる。部員は49名(マネージャー2名)。水・木曜日は自転車で10分ほどの中間仰木彬記念球場に移動しての全体練習、火・金曜日は学校でウエイトトレーニングなど体力づくりを中心としたメニューに取り組む。

平日の練習は夕方からという高校が大半を占めるなか、練習時間には恵まれている。「質はもちろん大切だが量も同じくらい大切。一流と呼ばれる選手ほど、時間をかけて練習している」と大久保監督。「質」の部分ではパフォーマンスを高める豊富な練習メニューを用意しており、例えば投手向けには約50種類のドリルやエクササイズがある。ただ、すべてを強制的にやらせるわけではない。全員で取り組むメニューもあるが、多くは個人の判断で行う。

俊足巧打の仲。「足には自信がある。出塁にこだわりチームに勢いをつけたい」

「試合で結果が出せなかったら自分で原因を考え、課題を発見し、それを克服するために練習する。その助けとなるメニューはできるだけ用意したいと思います。その上で、やる・やらないを決めるのは自分たちというのが基本スタンスです」。球場で行う練習以外は個々にメニューを委ねている。選手たちは練習試合にもノートを持ち込み、気づいたことを書き留めながら課題発見に努めている。

ミーティングで大久保監督の話を聞く部員たち

学生コーチの経験生かし
多様なデータ・理論を活用

中軸を担う小串。「自分たちの野球ができれば結果はついてくる。好機に1本出し、チームを勝利に導きたい」

「このチームにスター選手はいない。相手の嫌がる野球をしていこう」というのがチーム作りのスタート。昨夏から今年4月にかけて球場が改修工事で使えず、学校グラウンドはフリー打撃を行う広さがないため、必然的に守備・走塁の練習が中心となった。投手を中心に守りを固め、足をからめて得点を奪うチ―ムの土台はこうして生まれた。

そこに大久保監督が培ってきた知見が加わった。西南学院大では学生コーチとしてトレーニング方法や運動理論を学び、データ解析にも取り組んだ。今もトレーナーなどを通して様々な知識や情報をアップデートしている。そこで得てきたものや自身の考えを、チームに少しずつ落とし込んできた。

2年生右腕の渡邊。「守りが堅いので安心して投げられる。テンポのよい投球で試合の流れを作りたい」

全体練習がオフとなる月曜日の5・6限目に「勉強会」を開くのもその一環だ。試合動画を見ながら「自分ならここでこういうサインを出す。その理由は~だ」と解説する。「試合では細かくサインを出す。その意図や狙いまで伝わるように普段から自分の野球観を伝えている」という。

秋の大会では打者に1球ずつサインを送り、狙い球を絞らせた。4回戦の飯塚戦では本盗で得点したが「成功を確信してサインを出した」というから驚きだ。データや理論を駆使する野球に触れるのは部員たちも初めての経験だったが、大会や練習試合で結果が出るにつれて好奇心を持ち、積極的に取り入れようとしている。

エース野口。「終盤のしびれる場面で登板することになると思うが、重圧に打ち勝って圧倒する投球を見せたい」

大久保監督は言う。「ミーティングでは様々なデータをもとに、試合のプランを練ります。もちろん試合に勝つためですが、結果を出すために周到な準備をするという意味では仕事も同じ。生徒たちには野球を通してそうした本質を学び、社会に出てほしいと思っています」。

勝つために必要なことを追求し、見える化し、課題解決に取り組む。データと理論を用いて新たな野球観を示し続ける26歳の青年監督に率いられ、希望が丘の新しいスタイルの野球が始まろうとしている。

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