夏を駆ける’25➂【八女学院】~筑後の新興勢力が満を持して迎える夏




硬式転向から5度目の夏
左腕石飛を柱に上位狙う

1923(大正12)年に八女技芸女学校として創立された私立校。八女津女子高等学校を経て1992(平成4)年の男女共学化にあわせて八女学院に校名を変更、このタイミングで軟式野球部が創部された。2007年夏には北部九州大会で優勝、全国大会に出場した実績もある。2020年秋の福岡大会準優勝を最後に軟式部としての活動に終止符を打ち、2021年春から硬式部へ転向した。

4番でエースの石飛はチームの大黒柱

2022年からは城北(熊本)を春夏4度の甲子園に導いた末次敬典監督のもとで力をつけてきた。当時無名だった同校の名を高校野球ファンの間に広めたのは2023年6月、創立100周年記念事業として行われた横浜(神奈川)との招待試合だろう。無料開放された久留米市野球場で多くの一般客が見守るなか3-4と善戦。1年生左腕の石飛太基が完投して注目を集めた。

その石飛が最後の夏を迎える。130キロ台なかばの直球、キレのあるスライダーを投げ込むエースは、打っても4番の大黒柱だ。このほか長身から投げ下ろす直球に威力のある右腕・永谷颯真(3年)、左スリークォーターでチェンジアップがよい平井聖悟(同)などタイプの違う投手が揃う。

打線は出塁率の高い大渕隆輝(3年)から中軸の桐明弦輝(同)、石飛につなぐのが得点パターン。末次監督がその将来性を高く評価する俊足巧打の1年生・吉田一登の打撃にも注目だ。

今の3年生は末次監督が着任して最初に勧誘した世代。1年時から試合に出ている選手も多く経験は豊富だ。昨年8月、今年5月の筑後地区大会では西日本短大附が不在だったとはいえ連続優勝するなど着実に結果も残している。秋・春はいずれも3回戦で敗れているが選手たちが見据えるのは初の県大会、さらにその上の景色だ。

投手力・守備力を重視
「凡事徹底」の人間形成

「強豪校との練習試合で細かな制球ミスも許されないことを痛感した」とエース石飛。「目標はまずは県大会だがその上を目指せるチーム」と力を込める

部員は65名。うち25名が寮生活を送る。八女市にある学校のグラウンドで平日は午後4時頃から練習が始まる。火曜日は加圧トレーニングを中心としたメニュー、水~金曜日は実践練習を行う。

ただ、グラウンドは他のクラブと共用のうえ、フリーバッティングをする広さが取れない。近郊の八女市営・立山球場を借りることもあるが硬式球に対応していないため、できるのは守備練習のみ。久留米市野球場や小郡市野球場、熊本県の山鹿市民球場に出向くなど練習場の確保には苦心している。

大渕
大渕も1年生から出場する選手の一人。「経験豊富な選手が多く、県大会出場は最低限の目標」

それでも「四球や失策がなければ十分に戦える」を信条とする末次監督に悲観する様子はない。特に低反発バットになってからは投手力・守備力の強化に力を入れ、攻撃では四球や敵失を得点につなげていくことに神経を注ぐ。練習試合では相手バッテリーの配球、投手のクセ、捕手のキャッチング技術などを見極める目を養う。その上で積極的に盗塁にチャレンジする。「失敗して初めて、足りないところが見えてくる」。トライアンドエラーを繰り返しながら盗塁の精度を高めている。

昨夏は4番を務めた桐明。「1年時から出場させてもらっており、夏の独特の雰囲気なども他の選手より知っているつもり。その経験を伝えていきたい」

練習では「1」にこだわる。ダッシュの1本目。キャッチボールの1球目。フリーバッティングでのファーストスイング。「本番は一発勝負。フリーバッティングでも初球からベストスイングができるよう、ゲージに入る前から準備しておかないといけない」とその姿勢を選手起用の判断材料の一つにするほどだ。桐明が「今は一球で仕留めることを自分の中でテーマにしている」というように「1」への意識はチームにも浸透している。

生活面では人間形成をテーマに据え、特に学校生活における挨拶の大切さを説く。「生活の基本である挨拶ができない選手は練習でも凡事が徹底できず、試合でボロがでることが多い」と戒める。

八女を野球の盛んな地域に
学校も部を強力サポート

「持ち味の足を生かし、出塁することを意識している」と吉田。外野手としては「打者のスイングを見て守備位置を変える」。夏は打率4割以上が目標だ。

今年で74歳を迎えた末次監督だが、西日本短大附で新庄剛志(現日本ハム監督)、城北で牧原大成(現ソフトバンク)らを指導してきた情熱に衰えはない。城北で末次監督のもとコーチを務めた森澤智章部長も右腕として支える。

九州・沖縄をはじめとする指導者とのパイプを生かし、練習試合では各県上位校クラスの胸を借りる。6月には旧知の仲である横浜・村田浩明監督、山梨学院・吉田洸二監督らがしのぎを削る関東まで遠征の足を伸ばした。そのネットワークは卒業後の進路支援にも生かされている。こうした環境が中学生の関心を引き、八女市周辺部だけでなく福岡、北九州からの入部も増えている。地元中学生が九州外に流出する現状を忸怩たる思いで見てきただけに、地域の受け皿の一つになりたいという気持ちも強い。

一度に6人が投げられるブルペン

学校もバックアップ体制を整える。城北の監督を退いた末次監督のことを人づてに聞き、自ら就任要請に動いた入部清隆理事長も時間があれば監督と野球談議に花を咲かせ、今後の方針について話し込む。「まだ設備も十分でなく不自由な思いをさせているが少しずつ環境を整えていきたい」と、まずはグラウンド横にブルペンを新設した。末次監督も「人間形成に重きを置く指導方針を受け入れてもらい、勝利を過度に求められることもない。私も選手たちも伸び伸び野球ができている。その支援に勝利で応えたい」と胸のうちを語る。

「野球部には学校だけでなく、地域を引っ張っていく存在になってほしい」と入部理事長。末次監督も「周辺校の指導者とも協力しながら、八女を野球の盛んな地域にできれば」と展望を描く。

硬式転向から5回目となる節目の夏は、創部以来最強のチームでのぞむ。野球どころ=八女のイメージをつくっていくためにも、ひと暴れするつもりだ。

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