1年生加入でチームに活気
大会に参加するのは、甲子園出場を目標とするチームばかりではない。部員確保に奔走し、何とか試合に必要な人数を揃える。目指すのは1本のヒット、1つの白星。甲子園は遥か彼方にあり、目標とするにはあまりに遠い存在だ。それでも日々、白球を追う。水産もそんな球児が集まる一校だ。

昨秋は海洋科の部員2人が遠洋航海実習に参加したため9人揃わず、3年生部員の応援を得て大会に出場したが育徳館に0-20で大敗。新たな部員を得てのぞんだ今春も2桁失点で敗れた。それでも4月に11人の新入部員を得て部は活気づいている。
1年生も加えてポジションを再編した4月以降、連係プレーの練習を重ねた。その成果が出始めた6月の練習試合では失点が大きく減るようになった。「これまでは二塁打を打たれても中継ミスで三塁進塁、時には本塁生還を許すこともあったが、そうしたプレーが大きく減った。20点取られていた相手を5~6点に抑えるようなり、勝てる試合も出てきた」と馬場聡史監督は手応えを掴んでいる。

チームの中心はエースで主将の諫山陽葵(3年)。スライダーを武器とする左腕だ。内角を攻められるようになったことでスライダーの効果が上がったのは、昨秋に入部し、この春から捕手となった中村竜宗(3年)の配球に依るところが大きい。
リリーフには普段ショートを守る宇山心晴空(1年)が立つ。長身から投げ下ろす直球にブレーキの利いた変化球を投げ、将来が嘱望される素材だ。攻撃でも1番や3番に入り、投打での活躍が期待されている。打線は長打力のある中村と山本優和(3年)がポイントゲッター。彼らの前にいかに走者をおけるかが得点を左右する。
馬場監督は「ミスが出るのは仕方ないが、そこを最少失点で耐え、接戦に持ち込めれば勝機も見えてくる」と夏を見据える。
新チームは6人でスタート

玄界灘に面する福津市津屋崎に校舎を構える水産は航海士、機関士、潜水士をはじめ数々の海に関わる担い手を養成する教育機関としての顔も持つ県立校だ。卒業生は海運・漁業・食品などの業界に進み、授業では2カ月にわたる太平洋での遠洋航海実習など、実際に海に出るカリキュラムも組まれている。
学校創立は1954(昭和29)年。野球部も翌年誕生したが上位進出とは無縁だった。部員不足による出場辞退もたびたび経験しながら歴史は受け継がれ、2019年夏に笠勝美監督(現副部長)の下で初めて県大会に出場。コロナ禍による活動中断を挟み、現在は馬場監督が指導に当たる。
例年苦労するのが部員の確保だ。野球経験者に声を掛けても「別のスポーツをやりたい」と、全国優勝の実績があるカッター(ボート)部などに流れる。運動自体を辞めてしまう生徒も少なくない。
2年前の4月に入部したのは諌山と山本の2人だけ。夏の大会後に権田賢介(3年)が加わったが部員は9人に満たず、その年の秋と翌春は遠賀や築上西と連合チームを組んだ。夏は単独出場したが3年生が抜けると6人になった。それでも「目が合ったら声を掛けた」という諌山の積極的な勧誘もあって飯野登磨、江口透己(3年)が入部。秋の大会後は中村が加わった。
そして今年4月、11人の新入部員を迎えた。「3年生の熱意はもちろん、2年生部員の持つ明るい雰囲気も入部を後押ししたと思う」と馬場監督。上級生には野球未経験者もいたが、1年生は大半が経験者。戦力的も大きく上積みされた。部員が増えたことで、紅白戦やゲームノックなど実戦的な練習ができるようになった。さらに西田朋生副部長(福岡高~福岡大)が4月に着任して指導に加わり、練習の密度も濃くなった。上級生には先輩としての自覚が芽生え、自主性を発揮する場面が増えた。
実質、この4月から始動したチームだ。これから成長段階という矢先に、夏を迎える。
大量失点しても諦めない心

練習では程よい緊張感はあるが、張りつめた空気はない。いいプレーが出れば笑顔も出るし、軽口も飛び交う。下級生に技術指導する上級生の姿も目に付く。先輩と後輩というより兄と弟、そんな大家族のような雰囲気がある。馬場監督は「これは校風かもしれませんが、明るい子が多くて練習でも笑顔が出る。試合でも何点取られようが諦めずに声を出し続ける。そうした姿勢は、うちのいいところだと思っています」とうなずく。
練習試合は格好の学びの場となる。実戦感覚を掴むことを最優先する馬場監督の方針で、大会前を除いてサインは出ない。ミスをした選手には叱責ではなく疑問を投げ掛け、その意図を共有した上で助言をする。その繰り返しのなかで、部員たちは自ら考えることを学んでいく。
馬場監督がミーティングで話す内容も、挨拶から始まり礼節、気配りなど野球以外のことばかりだ。「彼らは進学する同世代よりも、ひと足早く社会に出る。野球を通じて自分の頭で考え、自主的に動く習慣を身に付けてほしい」というのがその願いだ。

卒業後は大半が就職する同校では、高校で野球を終える部員がほとんどだ。誘われて入部する部員も少なくないように、積極性に欠けるきらいもある。そんな彼らがグラウンドで必死に白球を追いながら、少しずつ「大人」になっていく姿を馬場監督は見てきた。
チームが本当に強くなるのは今の1年生が最上級生になる2年後だろう。その1年生を部に導き、部の歴史を次世代につないだ3年生が最後に目指すのは、未だ手にしたことのない公式戦の白星だ。


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