機動力に活路見出す進学校
キリスト教教育を基盤とする私立の進学校。プロ球界に田中和基選手(立教大~楽天)らを輩出しているが甲子園の出場経験はない。今年のチームも昨秋、今春とも3回戦で敗れ、4月の福岡地区大会も3回戦敗退。目立った実績はないが、機動力をフルに駆使する野球で上位進出をうかがう。
驚きの光景だった。4月に行われた福岡地区大会2回戦の西南学院-香椎戦。出塁した西南の選手が次々とスタートを切っていく。刺されてもまた走る。偽走やディレードスチールなども交えて守備陣を揺さぶり、四死球や失策、野選を誘い得点を重ねていくさまは「機動破壊」と呼ぶにふさわしいものだった。7回コールド勝ちを収めたため攻撃は6イニングにとどまったが、8つの盗塁を決めた。

「足が速い選手が揃っているわけではない」と中原将太監督は言うが「走塁への意識が低い選手は試合に出られない」というほどチームとして走塁を重視している。
打席に立てば走者と連携してエンドランやスクイズを仕掛ける。打線をけん引するのはスイッチヒッターの吉開友治(3年)。状況に応じて入る打席を決め、左右に打ち分ける。俊足で洞察力も高く、塁に出すとやっかいな選手だ。中軸に座る舩越堅太郎、左の飯島梨居(いずれも3年)らは長打力も秘める。

投手陣は小川景、田上麟太郎(いずれも3年)の右腕2人が中心。いずれも直球と変化球のコンビネーションで打ち取っていく。「守りが乱れて早い回に失点するのが負けるときのパターン」というだけに、無駄な失点を防ぐことが勝利へのカギとなりそうだ。
夏の大会では過去最高のベスト8を目標に掲げる。最低4勝、場合によっては5勝が必要となるが、「十分に手の届く目標」と中原監督は密かな自信を抱いている。
軟式野球の戦術に学ぶ
1916(大正5)年に私立の男子校として開校。1994年に共学化、96年に中高一貫校となった。野球部は戦前から出場しているが夏の県大会出場はわずか一度だけ。中原監督が着任して2年目の2011年には好左腕・有吉弘毅(福岡大~BC石川)ー田中和基のバッテリーがいたが、それでも2勝するのがやっとだった。

「オーソドックスな野球をしていても勝てない」。スポーツ特待生制度もない環境下で強豪校とわたりあうため、中原監督が着目したのが走塁だった。さらに「うちは数字に強い生徒が多い。その強みを生かせる」として大学時代の経験をもとにデータ野球を導入。アドバイザーとして駒大苫小牧(北海道)の全国連覇を支えた遠藤友彦氏に師事して走塁の戦術を学び、2022年夏に過去最高のベスト16入りを果たした。
ところが翌年、中原監督は自らの希望で西南学院中へ移る。「飽和状態になっていた頭の中を一度、整理をしたかった」。中学では初めて野球をする生徒もいた。基礎から戦術まで根気強く指導を続け、生徒たちは大きな成長を遂げた。「それまでは教えたことができないと叱ってしまうこともあった。中学では叱らなくても生徒たちが成長してくれた。どうすれば相手に伝わるか。その本質を学びました」。
戦術面でも多くのヒントを得た。硬式球に比べて飛距離が出ずボールが跳ねる軟式球では、走塁が得点に大きく関わる。例えばヒットエンドランは走者一塁の場面だけでなく二塁、カウントによっては三塁の場面でもサインを出した。さらに「走者のスタートが良ければ見送る」意識と技術を教え込み、得点力を上げた。守備で1点もやれない場面では内野5人シフトを敷いた。こうした軟式ならではの戦術を硬式でも採り入れた。

昨夏、新チーム始動と同時に監督に復帰すると、改めて走塁に重点を置く野球をチームの軸に据えた。試合形式の練習を通して実践を重ね、ポイントとなる場面では全員を集めて話をする。「場合によっては1球ごとにプレーを止めてミーティングをするので、スリーアウトまで1時間かかったこともある」という。舩越主将は「最初は走塁についての知識もなく戸惑いもあったがミーティングや実践練習を繰り返し、徐々に実際のプレーに落とし込めるようになった」と振り返る。
ノーサイン野球への進化
機動力野球は選手の主体性を育んだ。行けると思えば自分の判断で盗塁を仕掛ける。ベンチでは投手の癖やスタートのタイミングなどを選手間で分析する。こうしたスタイルが定着すると、次のステップとしてノーサイン野球への移行を試みた。

ノーサインでのぞんだ春の大会は3回戦で筑陽学園に敗れたが3-4と善戦。福岡地区大会の香椎戦は理想に近い試合ができた。「ノーサインでやれる自信がついた」(舩越主将)ことで、夏もこのスタイルで戦うことを決めた。「力はついた。あと必要なのは自信だけ」と、5月以降は練習試合で強豪校に挑んでいる。吉開は「強いチームには『自分たち相手に走ってこないだろう』といった油断がある。その隙をつきたい」と強豪校撃破に意欲をみせる。
中原監督は言う。「このチームは監督のサインで動くより、自分たちで考えてプレーする方が合っている」。今では日々の練習メニューや試合での打順も選手間で話し合って決め、その理由を含めて監督に提案するなど〝ノーサイン〟の範囲は広がっている。
140キロの剛速球を投げる投手も、スタンドに豪快に打ち込むスラッガーもいない。それでもこの夏、西南学院の戦いから目が離せそうにない。



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