守りからリズムつかみ秋8強
冬場は筋力強化で打力アップ
昨秋の福岡大会でベスト8入りを果たした。春秋の県大会が南北各4校による現方式となった2014年以降初めての県大会進出で、一つの大会で4勝するのも2009(平成21)年秋の北部大会以来のこと。甲子園はおろか九州大会への出場経験もない県立校が躍進した。

チームの中心は1年秋から背番号1を背負うエース山本直(3年)。身長165センチと小柄だが130キロ前後の直球にスライダー、カーブなど変化球をコーナーに集める。大崩れしない安定した投球が持ち味で「フィールディング、けん制、打者との間合いの取り方などにも長け、総合力の高い投手」(黒岩秀将監督)だ。
2番手投手の育成が課題だったが、ここにきて右アンダーハンド・寒川琉斗(3年)の成長が著しい。大きくインステップし、直球は右打者の内角にシュート気味に食い込んでくる。5月に行われた北九州市長杯の準決勝・小倉戦では5回まで3安打無失点の好投を見せた。

攻守の中心は3番ショートの田中一成(3年)だ。1年夏から出場しており試合経験も豊富。黒岩監督も「ここぞというところで打ってくれる」と大きな信頼を寄せる。守備でも内外野のポジショニングを細かくチェックするなど司令塔役を担う。
チームは秋の大会後、ウエイトトレーニング・食トレに力を入れパワー強化を図った。秋までゼロだった公式戦の本塁打も、春以降は3本を記録。田中は小倉戦で両翼100mある桃園球場の左翼席に打ち込んだ。北九州市長杯は折尾愛真や戸畑など好投手のいるチームに打ち勝ってのベスト4。黒岩監督も「5~6点は取れる打線になった」と自信をのぞかせる。
成績向上の背景に
指導方針への納得感
北九州市八幡西区にある県立校。戦後、折尾高等女学校を前身とする折尾(女子校)と八幡市立商業学校を前身とする八幡商が東筑に統合された後、1956(昭和31)年に商業科・家政科が分離して開校した。夏はこれまでベスト8に三度進出。長らく県大会から遠ざかっていたが2023年夏に44年ぶりに県大会(ベスト32)に進出すると24年秋、25年春も4回戦まで勝ち上がった。

転機は3年前。部長から復帰した黒岩監督と当時の3年生との間に指導方針をめぐる溝が生まれたとき「自分たちは先生についていく」と言ってくれた2年生の存在だった。「それまでは生徒にもどこか遠慮があり、保護者にも気を遣っていました。しかし彼らの言葉に励まされ、自信を持って指導ができるようになった。生徒と指導者の間に信頼関係があれば保護者からの不満も出ません。練習の濃度も上がり、少しずつ勝てるようになってきました」。

チームとして培ってきた経験も蓄積されている。植嶋蓮主将(3年)は「これまでの財産を引き継ぐことで、新チームは一つ上のレベルからスタートを切れた」と言う。例えば走塁。前チームではワンバンゴー(投球がワンバウンドして捕手がはじいたら即座にスタートを切る)を徹底するなど力を入れてきたが、その意識は新チームでも自然と継承されている。公式戦でも一、三塁からの重盗をたびたび成功させており、走力は武器の一つになっている。

秋の8強入りは選手の意識も変えた。「以前は練習で手を抜くこともありました」。外野手の長尾壮真(3年)は頭をかく。「それが秋に結果を残せたことで『自分たちもやれる』と自信がつき、同時に『さらに上を目指すには練習しないと勝てない』と思うようになりました」。チームの目標も秋の大会後に「県大会出場」から「甲子園出場」に変わった。
当たり前のことを当たり前に
伸びしろの大きさで勝負
昨年8月からは、プロ選手のケアも行う外部トレーナーに身体の動きについて指導を受けている。バッテリーは捕手出身の森山拓也部長が担当し、週末は外部コーチのサポートも受ける。
黒岩監督は練習中、じっくり部員たちの動きを見守る。注視しているのは「当たり前のことを当たり前にやっているか」。苦い思い出がある。数年前の夏、1点を争う試合だった。無死二塁からの送りバントが小飛球となり野手の間に落ちた。しかし打者は走っておらず一塁アウト。結局1点差で敗れた。先輩の残した教訓を引き合いに、気を抜いたプレーは厳しく戒める。
個々の動きを観察していると意外な素質が見えてくることもある。コンバートして「はまった」という例も少なくない。外野から投手に転向した寒川もそんな一人だ。


「中学のクラブチームで主力だったような生徒はいない。体格に恵まれているわけでもなかった。そんな彼らが2年間で精神力も体力も見違えるように成長した。敢えてうちの強みを挙げるなら『伸びしろの大きさ』だと思います。同時にそれは、高校野球の魅力ではないでしょうか」
いたって普通の公立校だ。どの高校にもあるような練習環境にトレーニングメニュー。特別なものは見当たらない。ただ、チーム全体に「強くなりたい」「上手くなりたい」という素直な気持ちがある。周囲の助言に耳を傾け、対戦相手にも学びながら少しずつ力をつけてきた。
集大成の夏がやってくる。部の環境を変えた2つ上の代は3回戦で、今のチームの基礎を作った1つ上の代は初戦で、いずれも1点に泣いた。今年は順当に勝ち上がれば5回戦で南部の第1シード・福大大濠との対戦が予想される。先輩たちの思いも胸に、過去最高成績のベスト8にたどり着くには越えなければならない大きな山に挑む。


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