夏を駆ける’25⑥【久留米商】~40年ぶり復活狙う古豪 チームはいまなお進化中




秋8強、春4強の県大会常連
エース持地を軸に堅い守り

1915(大正4)年に開催された第1回全国中等学校優勝大会(現在の全国高校野球選手権大会)に九州代表として出場した県下屈指の古豪だ。春5回・夏4回の全国大会出場を誇り1962(昭和37)年夏には準優勝の実績を持つが、最後の甲子園出場は1985(昭和60)年夏までさかのぼる。

決して低迷しているわけではない。夏は3年連続でベスト16入りするなど県大会の常連だ。ただ、その先の九州大会・全国大会には届かない。そんな年が続いている。今年のチームは秋ベスト8、春ベスト4とここ数年で最高の成績を残して夏に向かう。

久留米商・持地

チームの中心は昨夏から主戦としてマウンドに立つ大型右腕の持地唯吏(3年)だ。サイド気味の腕の振り出しから繰り出す130キロ台後半の直球にスライダー、ツーシームなどを低めに集める。制球にもすぐれ、昨夏・秋と登板した試合は全て3点以内に抑えてきた。ひと冬越えて球速は143キロまでアップ。春は準決勝の福岡大大濠戦で満塁弾を浴びるなど7失点を喫したが「フォームを変えたこともあり、投球間隔が詰まったことで体の軸にズレが生じた」と原因も確認済み。日々のストレッチを念入りに行うなど、その修正にも余念がない。守りも早川佳希(3年)納村知希(2年)の二遊間を中心に堅い。

失点はある程度、計算できるだけにカギとなるのは打線だ。打線の奮起を促すため春は持地の登板を減らした。控え投手が打ち込まれた春日戦(3回戦)は1-8、東筑紫学園戦(準々決勝)は1-7からの逆転勝ち。東筑紫学園戦では4番稲用翔太(3年)が左翼へ特大の満塁弾を放ち、土壇場で3番岩丸稔(同)が同点打を放つなど中軸が勝負強さを見せた。「大量リードを許しても逆転できる経験が二度もできたのは夏に向けての大きな収穫」と中村祐太監督。持地の投げない試合では右の古賀塁士(2年)江口誠(3年)、左の菰原悠翔(3年)らが継投を見せたが、夏は彼らの活躍も欠かせない。

熱心なファンの多い古豪
選手層厚く2年生も活躍

久留米商OBの中村監督は現役時代は捕手として九州大会出場。別府大卒業と同時に久留米商に赴任し部長に就任、2019年1月から監督を務める

南部大会のメイン会場・久留米市野球場から南西約2キロにある学校の専用グラウンドで、16時30分から20時頃まで練習を行う。地元では「久商(きゅうしょう)」の名で親しまれ、昔からの熱心なファンも多い。「久留米市野球場で久商の試合があると観客が増える」というのは関係者の間ではよく知られた話だ。伝統ある野球部に憧れて入部してくる中学生も多く、部員数は63人と私立校並み。選手層は厚い。

今年はショート納村をはじめ2年生が先発メンバーに多く名を連ね「結果を恐れない思い切ったプレーができ、ベンチでもよく声が出る」(中村監督)と春の躍進を支えた。期待が大きいぶん、主力としての自覚を持ってもらおうと中村監督の指導も熱を帯びる。

「春は九州大会を目指していたのでベスト4には全く満足していない」と稲用主将。「持地が投げない試合でも打線の力で勝っていきたい」

チームの先頭に立つのは主将の稲用だ。秋の大会後、自覚不足を理由に一度は主将を外されたが「主将から降り、ケガもして、周りが見えるようになった。改めて自分が引っ張っていきたいと思った」と春の大会前に復帰を志願。練習に取り組む姿勢などが認められ主将に再任された。「秋までは〝盛り上げ隊長〟という感じだったが、主将復帰後はプレーでもチームを引っ張ってくれるようになった」(持地)とチームメイトの信頼も厚い。

昨夏も出場経験のある早川は冷静沈着な守備の要。「経験を生かして2年生の多い内野を引っ張っていく」

その稲用を副主将の早川が支える。守備の司令塔として状況に応じて守備位置を細かく指示するなど、「陰のリーダー」として中村監督の信頼も厚い。「稲用はプレーで周りを引っ張り、自分は言葉で伝えていくタイプ。内野は2年生も多いのでしっかり指示を出していきたい」と自らの役割を肝に銘じる。

背中で引っ張るリーダー、冷静な目を持つ補佐役、頼りになる絶対的エース。そこに元気印の2年生たちが加わったのが今年の久留米商だ。

「未完成」のまま大会へ
さらに成長するチーム

「持地におんぶにだっこ」ー。秋までの久留米商はそう言われても仕方がないチームだった。好投する持地を十分に援護できず、勝っても僅差。得点力のアップは最大の課題であった。

エース持地。「夏の目的は点を取られないことではなく、優勝すること。そのための投球を心掛けたい」。

ひと冬越して下級生も力をつけ、春の大会では劣勢を跳ね返す粘りも身につけた。一方で、上位校との力の差を感じた春でもあった。「九州大会に行くチームとの実力差は大きく、これまでと同じ戦い方では勝てない」(中村監督)として、4月以降は「トライする」をテーマに、練習試合などで攻撃・得点のバリエーションを増やす様々な試みを行ってきた。失敗しても「ナイストライ」の声が上がる。

中村監督が「夏の大会前はいつも『やれることはすべてやった。自信を持ってのぞもう』と言って送り出すが、2年生の多い今年はやることがまだまだある」と言うように、大会が迫っても最終調整という段階にはなく厳しい練習が続いている。「1カ月で高校生は驚くほど伸びる。決勝(7月27日予定)に向けて成長し続けるつもりで大会にのぞみたい」。

ナインも頂点を見据える。「この夏は、持地をどれだけ温存できるかがカギ」と早川がチームの思いを代弁すれば、持地も「準決勝、決勝にピークを持っていくことを考えている。そのためにも球数少なく、体力を消耗しない投球を意識していきたい」と準備を整える。控え投手の踏ん張り、打線の援護で勝ち上がり、甲子園をかけた最終盤で持地が満を持して登場するー。そのとき、40年ぶりの甲子園出場は現実味を帯びてくる。

今大会のメイン会場はお膝元である久留米市野球場。もちろん決勝の舞台も久留米だ。「久留米を盛り上げられるように頑張りたい」と語る中村監督の視線の先には、スタンドで歓喜に沸く関係者・地元ファンの姿がある。

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