夏を駆ける’25④【小倉】~「師弟コンビ」のもと 名門復活へ再始動




秋に九国、東海大福岡を連破
夏はノーシードも怖い存在

1947(昭和22)、1948年と夏の全国連覇を達成した福岡が誇る伝統校。ただ甲子園出場は1978(昭和53)年春以来、久しく遠ざかる。その間、何度もチャンスはあった。近年では2018年に剛腕・河浦圭佑をエースに立てて春の福岡大会を制したが、夏は北福岡大会の準決勝で敗退。その後は不本意な成績が続いている。2022年には右腕・吉川雅崇(現九共大)、2023年には左のスラッガー河野戴駕(現九産大)とプロ注目の好素材を擁しながら北部予選で敗れた。

エース・田中秀拓(3年)

そんな小倉が昨秋、九州国際大付、東海大福岡と強豪私立を立て続けにコールドで破って県大会に進出した。原動力となったのはエース田中秀拓(3年)。スピンのかかった直球は120キロ台後半(昨秋当時)ながら、球速以上の威力を感じさせる。細かなコントロールは気にせずどんどん投げ込むタイプで、九州国際大付戦では6つの四死球を与えながら7回を5安打完封。冬場はウエイトトレーニングに力を入れて球速もアップ、新たなフォームを試した春先は制球に苦しむ場面もあったが夏に向けて調子を上げている。

控えには右の加藤捷幹(2年)のほか、昨年の全国中学生都道府県対抗野球大会で福岡選抜に選ばれた1年生右腕・蕨野武尊も春以降、経験を積んでいる。

勝木主将。「1球の大切さを意識してチームで練習にのぞんでいる。秋春の悔しさをバネに一戦必勝でのぞみ、一日でも長くこの仲間たちと野球をしたい」

打線は長打も打てる吉原睦人(3年)、小林雅輝(同)のあとに勝負強い林悠真、良永修の2年生コンビが続く。流れをつかむと打順に関係なく一気に畳みかける集中打もある。「今年は傑出した選手はいない。一人一人がそれぞれの役割を果たしていく」(勝木大生主将)との意識が徹底された秋は打線がつながったが、春は初戦で敗れ、続く北九州市長杯もベスト8止まり。勝木主将は「初球から振っていく、逆方向に打ち返すなど、秋にできていた打撃ができなかった。今までやってきたことをもう一度見直し、夏に向かいたい」とリベンジを誓う。

夏のシードからは漏れたが、勢いに乗ると強豪をもなぎ倒す力があるだけに怖い存在だ。

「勉強優先」の環境
自主練でスキルアップ

東大、京大をはじめ難関国公立大に毎年合格者を送り込む県内屈指の進学校。選手42人を7人のマネージャーが支える。水・金曜日は16時15分から、7限目まである火・木曜日は17時15分から専用グラウンドで練習が始まる。19時には全体練習を終え、完全下校時間の19時30分までは自主練に取り組む。

自主練習に励む部員たち

野球部にも例年、難関大学にのぞむ部員がいる。「入部してくる生徒にも勉強が最優先と伝える」という中島大貴監督は「勉強で培った集中力をグラウンドで発揮してほしい」と期待する。全体練習は早めに切り上げて自主練の時間を増やすなど、限られた時間を有効に使うために試行錯誤を繰り返す。

自身も小倉で白球を追った中島監督は大学卒業後、MSH医療専門学校で社会人野球を経験したあと教員を志し、31歳で県の教員採用試験に合格した苦労人だ。八幡中央と折尾で3年間ずつ勤務、折尾では監督を務めた。2023年4月に小倉へ異動して部長に就任すると、夏の大会後は監督へ。「自分が母校の監督になるとは夢にも思わなかった」。

2024年4月には、同じく野球部OBで小倉東の監督を務めていた高橋渉さんが小倉へ。中島監督が高校生のときに野球部長だったのが高橋さんで、奇しくも師弟関係にある2人が名門復活に向けてタッグを組む形となった。

髙橋部長(左)は1991年卒、中島監督は2004年卒の野球部OB。チーム内で役割分担を図りながら名門復活を目指す

練習指導や試合の采配は監督、グラウンド外のことは部長と大きく役割を分担しており、中学生の視察や指導者との関係構築、野球部後援会との折衝には高橋部長が精力的に動く。今春の新入部員には蕨野ら逸材が揃った。「ここ数年は周辺の進学校に流れていた中学生が、少しずつ小倉の方も見てくれるようになった」。後援会からは新しいバッティングマシンや野球道具などの支援を受けるなど、着実に部の強化を図っている。

OBによる「二人三脚」
意識改革で部員は急成長

「自分の強みはストレート。強い相手になるほどスピードが乗る」とエース田中。「全試合完封するつもりで甲子園を目指す」

中島・高橋体制となって初めての新チームがいきなりベスト8と結果を残したが「春は初戦で負けたように、力があるチームとは思っていない」と中島監督。「秋は高橋先生が『逆方向に打つ』『初球からスイングをかけていく』などチームとして取り組む方針を示してくれ、そこに全員が取り組んだ。先生の影響は大きいと思います」。

ただ、結果が出たのは単に戦術だけが原因ではない。高橋部長は就任してすぐ「これでは勝てないだろうと感じた」という。「考えの甘さというか、練習に取り組む姿勢に〝この程度でいいだろう〟という雰囲気があった。中島先生にも相談し、気づいたことは細かく言うようにした」と振り返る。「生徒たちが怠けているとうわけではなく、それが当たり前と思っているだけ。それは違うんじゃないか、こうじゃないの、と言えば素直に耳を傾けるし、理解も早い」。

勝負強い打撃と軽快な守備でチームを引っ張るショート吉原。「甲子園に行くつもりでここまでやってきた。夏はベンチ外の部員も含め一丸となって戦う」

全国連覇から今年で77年。その偉業を知らない部員も多い。「5月の大型連休には早稲田実との練習試合が実現したが、それもかつての先輩たちの活躍やOBの働き掛けがあったからこそ。伝統を重荷に感じてほしくはないが、先人たちの頑張りがあって今があることは知ってほしい」と部の歴史についても語る。「小倉の伝統を背負っているという思いで、校外でも言動・身だしなみには気をつけている」と副主将の吉原は部員たちの思いを代弁する。

春は結果が残せず、6月に行われた東筑との定期戦でも3-8と完敗。名門復活に向けた道のりは決して順調ではない。それでも伝統を受け継ぐ二人の指導者のもと、部員たちは日々さまざまな気づきを得ながら、先輩たちが栄冠に輝いた舞台を目指している。

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