【観戦記】西短大附4-3近大福岡(選手権福岡大会準決勝)




◇西短大附4-3近大福岡(選手権福岡大会準決勝)

試合終盤に入り一進一退の攻防が続き、延長タイブレークに突入した一戦を西日本短大附が制し、3年ぶりの決勝進出を決めた。

▼準決勝(22日・北九州)〔試合記録
西短大附 000 010 100 2=4
近大福岡 000 200 000 1
=3
(延長10回タイブレーク)
【西】尾形→中野→村上
【近】田邊→山本→田邊→永嶋→田邊→永嶋→桑村

タイブレークの10回表、西日本短大附は無死一、二塁から5番村上が送って一死二、三塁。続く斉藤のショート左へのゴロが内野安打となり、さらに一塁送球がそれる間に二塁から高峰も生還して2点を勝ち越し、その裏の近大福岡の反撃を1点に抑えて逃げ切った。

10回表西短大附一死二、三塁 斉藤の遊内野安打で一塁への送球が乱れる間に二塁から高峰が生還

先手を取ったのは近大福岡。4回二死後、5番中川が左前打、さらに下見も左前打を放って一、二塁。続く田邊の一ゴロ失で二塁から中川が生還した。なおも二死一、三塁から橋本の左前打で下見も生還。2点を先制した。

西日本短大附は5回一死から1番奥が三塁前にセーフティバントを決めると井上が送って二死二塁とし、古賀の右越え二塁打で1点を返した。7回は一死後、四球を選んだ奥が二盗を決めて一死二塁。井上の一塁線へのバントが内野安打となる間に奥が一気に本塁を陥れ、同点に追い付いた。

近大福岡は2点を追う10回裏、無死一、二塁から3番坪根が遊ゴロ併殺打(6-4-3)に倒れ二死三塁。河村の左前打で1点を返したが中川が遊ゴロで試合終了。粘り強く戦ったが1点及ばず力尽きた。

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終盤に入って山場が何度も訪れ、どちらに転んでもおかしくない緊迫した試合を西日本短大附がものにした。

近大福岡・田邊

近大福岡はエース田邊が先発。2日前の九州国際大付戦で134球を投げて2安打完封、その3日前には福工大城東戦で154球を投げて1点差の試合を完投しており、疲労の蓄積が懸念された。130キロ前半(この日最速137キロ)の直球とスライダーを軸に、100キロ台のカーブで緩急をつけて強打の西日本短大附打線にのぞんだ田邊は、際どい制球に苦しみ4回までに4つの四球を与えて72球を要したが、要所では力のある直球とスライダーを低めに集めて得点は許さなかった。

西短大附・尾方

西日本短大附は2試合続けて完投しているエース村上ではなく、左腕の尾方が先発。4回戦以来の登板となった。120キロ台後半(同132キロ)の直球、100キロ台のスライダー、90キロ台のカーブといすれも制球がよく、ストライク先行の投球でテンポよく3回までゼロを並べる。

試合が動いたのは4回。この回も簡単に二死となったが中川が直球を左前に合わせ、下見も直球を三遊間に運んで一、二塁。田邊の一ゴロを古賀が前にこぼし、球を拾って一塁ベースに向かおうとしたが、球が手に付かず一塁セーフ。その隙をついて二塁から中川が本塁をついて先制した。さらに橋本も左前に適時打を放ち、竹松はカーブをセカンド右に運んだところで、西日本短大附は救援に右腕の中野を送り込み、後続を断つ。

西短大附・中野

直後の5回、西日本短大附も反撃に転じる。一死をとったところで、田邊は水分補給。足がつりかけていたのかもしれない。1番の奥が持ち味の俊足を生かして三塁前にセーフティバントを決めると、井上が送って二死二塁。古賀は高めに浮いたスライダーを逃さず右翼フェンスを直撃するものすごい当たりの二塁打を放って奥が生還。ここで田邊は降板し、山本光が4番高峰を変化球で遊ゴロに打ちとって1点差を守る。

6回表になると田邊が再びマウンドへ。しかし、投げるのはほとんどがカーブ。速い球は投げたくても投げられない…。そんな悲壮感さえ漂わせながら、それでも外野フライ3つでこの回をしのぐ。

7回表も変化球主体の投球が続くが一死から奥を四球で出してしまい、奥はすかさず二盗を決める。ここで井上が一塁線に送りバント。打球は一塁線上を転がり、打球処理に動いた捕手の下見は打球が切れるのを待ったが線上で止まってしまう。下見がボールを拾い上げ、がら空きになったホームを目掛けて突っ込んできた奥に気づいたときにはもう遅かった。クロスプレーにさえならず、奥が同点のホームインに滑り込む。

7回表西短大附一死二塁 井上の送りバントが内野安打となる間に二塁から奥が生還

次の1点で勝負が決まりそうな気配が漂い始めた8回表、田邊は先頭の村上に頼みのカーブを一・二塁間に運ばれる。続く斉藤への初球が暴投となり、村上が二進したところで二度目の降板となった。この大事な場面でマウンドに向かったのは左腕の永嶋。福岡魁誠との初戦で打者一人に投げただけでここまで出番がなかった永嶋は、田邊からボールを受け取ると「あとは俺に任せておけ」と言わんとばかりに田邊の頬をぴしゃぴしゃと叩き、気合十分の表情でマウンドに駆け上がる。投げたくてうずうずしていた、そんな感じだった。

近大福岡・永嶋

右腕を大きく振り上げるダイナミックなフォームから130キロ超(同135キロ)の直球をビシビシと投げ込む永嶋は犠打、死球、野選で一死満塁と絶体絶命の場面を迎えたが、中野をスライダーで空振り三振、奥にはフルカウントから外角いっぱいに直球を投げ込み見逃し三振に仕留める。表情一つかえずに永嶋がベンチへ全力で駆け戻るシーンは、この試合でもっとも球場が沸いた瞬間だったかもしれない。

5回以降、中野に無安打に抑えられてきた近大福岡もその裏、先頭の坪根が左前打。河村が送って一死二塁と勝ち越しのチャンスを迎える。しかし中川は二ゴロ、下見はスライダーを打たされて遊ゴロ。中野も踏ん張る。

9回表、近大福岡は三たび田邊がマウンドへ戻ったが、120球を超えていた右腕は限界を迎えていた。井上の強烈な左直のあと、古賀に四球。続く高峰の初球がボールになったところで、レフトに回っていた永嶋が再び救援に立つ。永嶋はここでも高峰を二ゴロ併殺打に打ち取り、近大福岡はいい流れで9回裏の攻撃を迎える。

西短大附・村上

近大福岡に傾いた流れを変えようと西日本短大附はその裏、エースの村上をマウンドへ送り込むが先頭の田邊が左前打で出塁。近大福岡ベンチは疲労困憊の田邊に代走を送り、勝負をかける。橋本の送りバントが二塁封殺されたのが痛かったが、永嶋は追い込まれながらもバスターで投手足元を抜いて一死一、二塁。サヨナラの走者が二塁に進み、打順はトップに戻る。しかしここから村上のスライダーが冴えた。辰嶋、平田をいずれも空振り三振に仕留め、試合は延長タイブレークに入った。

10回表、西日本短大附は送りバントで一死二、三塁として斉藤の一打はショート左への弱い打球。中川が追いついて一塁送球するが、これがライト側に逸れてしまい二者が生還(記録は内野安打と悪送球)。ついに均衡が破れた。なおも一死二塁の場面で近大福岡は1年生の桑村を送りこみ、その後二死満塁とされたが奥を遊ゴロに打ち取り、10回裏の攻撃に望みをつなぐ。

近大福岡は3番坪根からの攻撃。強攻したが6-4-3の併殺打となり大勢が決した。河村が4番の意地を見せる左前打を放ち1点を返したものの、中川が遊ゴロで試合終了。3時間を超える熱闘に終止符が打たれた。

試合終了後、ベンチ前で西短大附の校歌を聞く近大福岡ナイン

西日本短大附は古賀のタイムリーこそ出たものの、あとの3点は好走塁や内野安打、敵失で得たもの。田邊、山本光、永嶋、桑村の4投手を攻めあぐねて苦しい試合となったが、途中登板の中野、村上の踏ん張りが大きかった。強力打線といえども頂点を目指すなかでは打てない試合もある。そこをきっちりと勝ち切り、優勝に向けて大きな1勝となった。

近大福岡は中盤以降、西日本短大附の攻撃をよくしのいだ。最後にショート中川の悪送球はあったが初回、奥の弱い当たりをダッシュよくさばいたのも中川だった。3回先頭打者で迎えた奥のゴロにもすばやく対応。いずれも無死だっただけに俊足の奥を出していれば、また展開は違うものになっていただろう。

今年の近大福岡は田邊を中心としたチームだったが、田邊がマウンドを降りたあと、控え投手や野手たちが強打の西日本短大附と互角にわたりあったその戦いぶりは、チーム全体で勝ち取ったベスト4であることを証明するのに十分だった。

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