「主役は選手」の奔放野球で、
夏舞台を縦横無尽に駆け巡る
【福岡大若葉】(福岡市)
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創部5年で二度の県大会実績
陽動作戦を駆使し強豪に挑む
前身の九州女子高校はソフトボール日本代表・上野由岐子の母校としても知られる。2010年4月に福岡大学との法人合併によって福岡大学附属若葉高校に改称、野球部は2019年度に男女共学となったタイミングで創部された。2021年4月に土井誉仁監督が就任し、いきなりその年の夏に3勝して県大会に進出。昨夏も県大会にコマを進め、今春の福岡地区大会でもベスト4入りを果たすなど、創部5年目にして早くも上位をうかがう。
今年のチームは2022年の福岡地区1年生大会でベスト4入りしたメンバーが中心。中でも1番ショートの水迫幸太(3年)は走攻守三拍子そろった好選手。投手陣は大黒柱が不在で、小刻みな継投を見せる。福岡地区大会では1年生左腕の川村隆之祐から右サイドハンドの田中那和(3年)、軟投派左腕・川原悠耶(同)、右本格派の井上幸輝(2年)とタイプの違う4人をつないで勝ち上がった。守りも派手さはないが堅実だ。
特徴的なのはその戦いぶりだ。攻撃では重盗・スリーバントスクイズ・ディレードスチール・偽走、守りでは思い切ったシフト展開やピックオフプレーなどを駆使。勝負処では打者だけでなく塁上すべての走者に伝令を送るなど、揺さぶりをかける。
「何をやってくるかわらない」と相手に警戒させ、流れを読みながら作戦を繰り出し、きわどく勝利する。そんな野球をするのが福岡大若葉だ。
神奈川・岐阜で27年の監督経験
部員に求める「当事者性」
土井監督は激戦区の神奈川で16強2回の実績を残したあと、42歳のとき教員採用試験を受け、岐阜県の加茂へ赴任。その後、2021年4月に教員募集をしていた福岡大若葉に移った。
部員たちに求めるのは〝当事者性〟。「自分事としてとらえ、考え、動く。やらされる練習ではうまくならない」というのが持論だ。「野球をする、試合に勝つために集まっている以上、そこから逸脱するようなことはダメだが『基本、自由にやってよし』というのが僕の方針。技術的に悩んでいたら助言はするが、スキルも主体的に習得してほしい」。
自由な雰囲気のもとで行われる練習は、一見〝ぬるく〟みえる。談笑しながら着替え、練習の準備をする部員たちはキビキビ動いているとは言い難いが、土井監督は「急げ」とは言わない。むしろ「みんなニコニコしているでしょ。あれが大事」と笑顔で見守る。部員の意思を尊重するという点では大学や社会人の練習風景に近く、日々の練習も方向性は土井監督が示すが具体的なメニューは藤川純之介主将(3年)を中心に部員たちで決める。
こうした指導を「生徒に甘い」と見るむきもある。反発する部員もいれば、堂々と自分の感情をぶつけてくる部員もいる。「チームは生き物。同じことをやってもうまくいく年もあれば、いかない年もある」。部員の意識が伴わなければ単なる〝締まりのないチーム〟になりかねず、監督自身も毎年試行錯誤を続ける。
「生徒と対等の立場で『向き合うのではなく、横に並び共に歩む』のは難しいし、疲れる。なかなか共感されない指導スタイルだと思います」と苦笑するが、信念は揺るがない。
バス移動が日常の〝騎馬遊牧民〟
ベンチの選手たちが「参謀役」
学校の敷地内に練習スペースはなく、月曜日は福岡大学野球場(福岡市西区)、水~金曜日は汐井公園野球場(同市東区)ほか公営球場で練習し、週末は県外を中心に対外試合に出向く。専用バスの定員は44人。残りの部員は副部長、コーチのもと学校のわずかなスペースを使って練習に励む。「〝騎馬遊牧民〟のようなチームだが、移動疲れとは無縁になり精神的にもタフになった」。
部員は73人(うちマネージャー6人)。入部の問い合わせや見学希望者は年々増えている。福大系列校としての人気に加え、その指導方針への関心も高い。水迫は「高校では楽しんで野球をしたかった。若葉の試合を見に行きベンチの雰囲気を見て決めた」。「大学進学を考え福大系列校の若葉を選んだ」という主将の藤川も「自分たちで考え、楽しみながら、メリハリをつけてする野球」の醍醐味を笑顔で語る。
〝当事者性〟も浸透している。外野手の池田凱(3年)は「1球ごとに外野手同士で声を掛け合って守備位置を調整している。低反発バットが導入されてフライは失速しやすくなったので的確なポジショニングをしていれば追いつける」と自信を見せる。
投手の田中はベンチにいる時には作戦コーチ的な役割を果たす。例えば代走起用について「ここは足の速さより経験を優先させた方がよい」など土井監督に進言する。「監督にやらされているのではなく自分たちで考えながらやっている。試合に出ていない時も頭を使うし、野球を楽しめる」。土井監督も「試合の流れを見ることができる選手は何人かいて、彼らの意見は重視している」と信頼を寄せる。
数々の陽動作戦もこうした取り組みの延長線上にある。「140キロの球を投げる投手やホームランバッターがいれば別だが、うちに入ってくる部員たちの技術的なレベルは決して高くない。まともにやれば歯が立たない相手に何をすべきか、皆で一緒に考えながらやっている」と土井監督。「100種類くらいある」というサインは、先述のように選手たちの意向も加味されて発動される。
野球漫画は選手たちが主役だ。一人ひとり個性があり、それらがぶつかり合い、絡み合いながら勝利を目指す。だから読んでいて面白い。福岡大若葉もそんな漫画のようなチームだと土井監督は言う。
この夏、福岡大若葉がどのような野球を見せてくれるのか、興味が尽きない。
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