投打にパワーアップを遂げ
「昨夏超え」に挑む
【大牟田】(大牟田市)
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左腕・境を中心にした堅守で
春は25季ぶりに九州大会へ
1919(大正8)年に大牟田職業学校として創設された私立校で、野球部の創部は1946(昭和21)年。2007年春にはエース阿部和成(元ロッテ)を擁してセンバツに出場し初めて甲子園の土を踏んだ。この時に部長だった川口寛史監督が2011年から指揮をとり、今年で14年目を迎える。近年も上位にたびたび顔を出しており昨夏はベスト4、今春は25季ぶりに九州大会へコマを進めるなど夏初Ⅴへの気運が高まる。
チームの大黒柱は境利月(3年)。1年夏からマウンドを経験する左腕で、130キロ台中盤の伸びのある直球が武器。昨夏まではほぼ直球とカーブだけで勝ち上がってきたが、秋以降はカットボール、チェンジアップ、スライダーなども交えるようになり投球の幅が広がった。敗れはしたが昨秋5回戦では筑陽学園から19奪三振。立ち上がりエンジンの掛かりが遅く、時折制球を乱すなど課題はあるが、自分のリズムをつかむと手の付けられない投球を見せる。
打線は長打力のある左の山下駿哉(3年)、右の河野凌太(同)が得点源。境は打撃もよく高打率を誇る。1年生ながら春の九州大会の先発メンバーに名を連ねた福永未來が俊足を生かして1番を打つ予定で、その出塁もカギを握りそうだ。春の福岡大会は延長タイブレーク、終盤の逆転劇など接戦をものにしてきた。川口監督は「勝負強さ、打力は昨年のチームより上」と自信をみせる。
境に続く2番手投手の育成が長らく課題だったが、春の大会決勝で春日を相手に9回1失点と好投した右腕・久保山桐吏(3年)が調子を上げている。「小気味のよい投球が持ち味。インサイドにいい球を投げるし、スピードもある」と、夏はこの2人にマウンドを託す方針だ。
主力選手の2人が故障者を抱えているのが懸念材料。大会には間に合う予定だが、試合勘を含めた調子をどこまで取り戻せるか。
当たり前のことを、当たり前に
九州各県の上位校と腕磨き
学校から徒歩10分ほどのところにある専用グラウンドで、平日は16時過ぎから練習がはじまる。19時30分までには全体練習を終え、その後は個々の自主練習に入る。校内に寮はあるが65人(うちマネージャー1人)いる部員の大半は自宅通学。隣接する熊本県荒尾市からも受け入れる。川口監督のほか部長、副部長、コーチ2人の5人で指導にあたっている。
「特別なことはやっていない。走塁での全力疾走、守備での声掛けやカバーリングなど、当たり前のことを当たり前にやろうといっている」と川口監督。取材当日はキャッチボールのあと、主力メンバーが守備、ベンチ入りを目指すメンバーが走者に入ってのシートノックからスタート。それが終わると守備と走者のメンバーを入れ替えて行う。1年生はこの時期、体幹トレーニングが中心だがノックには全員入るなど守備練習に時間を割く。そのあとフリーバッティング、ティーバッティングに分かれての打撃練習に移った。
週末は九州各地への遠征も多い。「各県の上位4校をピックアップして、そこにお願いしている。昨年もそうだったが、強豪校と練習試合を重ねることで選手たちは自信をつけている」。春の九州大会で対戦した神村学園(鹿児島)とは新チームになって三度目の対戦だった。柳川高時代の恩師・末次秀樹監督が率いる真颯館との練習試合も毎年恒例となっている。
鉄腕エースは心身共に成長
昨夏の悔しさを胸に夏初Ⅴへ
良くも悪くも、境の出来がカギを握るこの夏。「オフの間は体重を増やすことを意識し、秋から10キロ増えた」という境は今も身長が伸びているといい、春の大会からさらに逞しさを増した印象だ。
「とにかくタフで、肩肘のスタミナもある。無駄な力が抜けるのか、多少へばった方がいい球を投げるくらい。肩の関節が柔らかくこれまで目立った故障もない」と川口監督も驚く鉄腕ぶりでチームをけん引してきた。球速は130キロ台前半~中盤、最速137キロ(筆者観戦時)といったところだが「腕の振り出しが打者から見づらく、130キロの球も140キロに感じるのではないか」というのが川口監督の分析だ。
もともと表情を変えず淡々と投げるタイプだったが「最近は試合中、下級生に自分から声を掛けることも増えた。高校入学前はやんちゃな面もあったが、この3年間で随分しっかりしてきた」と精神面の成長も著しい。
「球速へのこだわりは特にないが、直球で内角をどんどん攻めていきたい」という境は「四死球と立ち上がりの失点に気を付け、チームの流れをつくれるようにテンポよく投げたい」と〝勝ちにつながる投球〟を誓う。
昨夏の準決勝・九州国際大付戦。グラウンド、ベンチ、スタンド…サヨナラ負けの瞬間を迎えた場所は違っても、その悔しさは等しく部員たちの胸に残る。志垣作空主将(3年)は「昨年は境一人に頼りっぱなしだったが、今年は控えに久保山もいる。全部員が一丸となり、今度こそ優勝を目指す」と闘志を燃やし、九州国際大付戦に6番ショートで出場した山下は「昨夏のベスト4を超え、甲子園に行くことが目標」と言い切る。
昨夏はあと2つ、今春はあと1つ。登り切ることができなかった頂上を目指し、投打ともパワーアップした大牟田の挑戦が始まる。
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