【観戦記】筑陽学園14-11飯塚(選手権大会準決勝)




【観戦記】筑陽学園14-11飯塚(選手権大会準決勝)

終盤激しい点の取り合いとなったが、5点差を追いついた筑陽学園が劇的なサヨナラ本塁打で混戦に終止符を打った。

▼準決勝(26日・北九州)
飯  塚 010 201 322=11
筑陽学園 200
000 273=14

【飯】白浜→中村→小串→伊藤【筑】木口→小柳→木口
〈本〉中嶋2(飯)高倉、高木(筑)

4-9で迎えた8回、筑陽学園はこの回先頭の矢野が四球で出ると小森の左前打で一、二塁とし、代打楠の左前打でまず1点。マハチが送って一死二、三塁から7番小野原がライト前に落として小森が生還した。なおも二死一、三塁で登板した飯塚の2番手中村から高木が四球を選ぶと、9番木口も押し出し四球を選んで7-9。ここで1番高倉が初球を右越えに逆転満塁本塁打を放ち、11-7と試合をひっくり返した。9回表に同点に追い付かれたが、その裏先頭の楠が死球で出るとマハチ棚橋が送り、小野原申告敬遠のあと、8番高木が左越えにサヨナラ3点本塁打を放って試合を決めた。

9回裏筑陽学園一死一、二塁 高木が左越えにサヨナラ本塁打を放つ

先手をとったのも筑陽学園。初回四球で出た高倉を網治が送ったあと、矢野のセンター右を破る二塁打で高倉が生還。小森四球のあと、木竹の投手強襲安打で矢野が還り2点を先制した。その後は飯塚の先発白浜の前に得点できなかったが、7回二死後、8番小柳が左前打。続く木口も右前に落とて二死一、二塁とし、高倉の右中間二塁打で2点を返し、8回の大逆転劇につなげた。

2点を先制された飯塚は2回二死後、7番中嶋が右越え本塁打で1点を返すと、4回は遊内野安打で出た白浜を嶋田が送り、一死二塁から中嶋が再び右翼席に運んで逆転した。6回には5番白浜が中前打、嶋田四球で無死一、二塁から白浜が三盗。一死後、福田の左犠飛で1点を追加した。7回にも四球で出た縄田を田中が送り、五島の投ゴロで三進すると、4番吉村の左前打で縄田が生還。白浜が右前打で続き、6番嶋田の左中間二塁打で2者が還って3点を追加してリードを広げた。

3点差とされた8回には8番福田が死球で出ると河村が送り、縄田のレフト右を破る三塁打で福田が生還。田中の左前打で縄田も還り再び5点差に広げた。逆転を喫した9回は代打金子が中前打、嶋田が四球を選ぶと安河内が送って一死二、三塁とし、8番隈本のニゴロでまず1点。なおも二死三塁から代打高橋が右前打を放って土壇場で追いついた。しかしその裏、4番手伊藤が高木のサヨナラ本塁打を浴び、激しい打撃戦をものにできなかった。

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飯塚・白浜

7回表に飯塚が3点を加えて7-2となったところでは、このまま飯塚が押し切るだろうと思われた。その後、7回裏と8回表にそれぞれ2点ずつ追加して8回表が終わった時には9-4。同じ5点差ではあったが「7-2」だった7回に比べて少し胸騒ぎがしたと告白すれば、それは結果論だと一笑に付されるだろうか。

試合は飯塚・白浜の立ち上がりを攻めて2点を先制した筑陽学園に対し、飯塚が中嶋の2打席連続の本塁打で逆転。6回に白浜が2つの盗塁を決めてチャンスをつくり犠飛で1点をもぎとると、7回には4番以下の3連打で筑陽学園・木口をノックアウト。じわじわと点差を広げつつあった。白浜も2回以降はスライダーを決め球に打たせて取り、5回6回は三者凡退に抑えるなど安定した投球を続けていた。

筑陽学園・木口

7回も簡単に二死。飯塚の勝利が確実に近づいているはずだった。しかし筑陽学園の反攻は意外なところから始まった。7回表に木口を救援してマウンドに上がっていた8番小柳が左前打を放つと、木口も追い込まれながら137キロの直球をセカンドの後方に落とし上位に回す。高倉も2球で追い込まれたがそこから粘り、ライトの右を破る2点タイムリー。下位打線の粘りから奪った2点が、筑陽学園に「まだいける」という雰囲気を呼び起こした。

8回に2点を失い再び5点差となったものの、8回先頭の矢野がストレートの四球。山が少しずつ動き始める。小森が左前打で続くと、ここで木竹に代わり代打は楠。準々決勝の育徳館戦でも代打で登場し、追撃のきっかけとなるタイムリーを放った切り札をここで投入。楠は期待に応える左前タイムリーで、まず1点。マハチ棚橋がきっちりと送って一死二、三塁とし、小野原がライト前に落ちるポテンヒットで小森も生還。3点差となりなおも一、三塁となったところで飯塚ベンチは白浜をあきらめ、中村をマウンドに送り込む。

中村は西日本短大附戦でも9回に抑えとして登板し、三人で片づけている。140キロ超の直球が魅力の反面、制球に不安を残すだけに、いきなり走者を背負ったピンチの場面で力まずに投球ができるかが注目された。しかし途中出場の高木を歩かせると、9番木口にもストレートの四球で押し出し。木口がガッツポーズで一塁に向かい、これで2点差。打席には前の打席でタイムリーを放っている高倉。「四球のあとの初球」を狙っていたのだろう。初球を振り抜くと快音を残した白球が右翼席に吸い込まれる。高倉は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった三塁側ベンチの前を駆け抜けると、ホームベース付近で待っていたチームメイトに抱きかかえられるようにして迎えられた。

8回裏筑陽学園一死満塁 高倉が逆転の右越え本塁打を放ちホームへ

逆転を許した飯塚の残す攻撃は1回。昨夏準決勝で6点のリードを守れず逆転負けした雪辱を晴らすためにも、簡単に負けるわけにはいかない飯塚は、代打金子(2年・左)が8回から再登板した木口の初球をセンター前にはじき返す。嶋田が四球でつなぎ、安河内が送って一死二、三塁とし、打席は8回裏から守備固めでレフトに入っていた主将の隈本。初球を叩いた一打はセカンド左を破ろうかという当たりだったが、高木が飛びついて抑えて一塁送球してアウト。その間に三塁走者は生還して1点を返し、なおも三塁に走者を残したがすでに二死。次打者は巧打の河村(2年・左)だったが、飯塚ベンチは今大会一度も出場の機会がない高橋を代打に送る。高橋は2-2と追い込まれながら、飯塚ナインの執念を乗せた一打がセカンドの右を抜けた。木口の投球数は150を超え疲れの色は隠せなかったとはいえ、飯塚の驚異的な粘りでスコアを戻した。

8回に中村、小串と救援陣を送り出し、9回の攻撃で小串にも代打を送っていた飯塚は4番手として今大会初登板となる伊藤(3年・右)をマウンドに送った。伊藤はその初球、楠に死球を与えてサヨナラの走者を出す。続くマハチ棚橋はファースト、サードが猛然とダッシュしてくる中で絶妙のバントを決めると、小野原は申告敬遠で一死一、二塁。打席には8回表から守備に入っている高木。7回、救援の小柳がセカンド上津原に代わる形で登板し、8回木口がマウンドに戻る際にセカンドに入っていた選手だ。

チームメイトから激励を受けて笑顔を見せながらも緊張の色は隠せず打席に向かった高木は、3-1からの5球目をフルスイング。打球は左翼後方に伸びていく。飯塚のレフト隈本が背番号8をこちらに向けて懸命に追ったが、そのはるか上を越えた白球はフェンスの向こうで大きく跳ねた。飯塚の選手の多くがその場でうずくまる中で高木がダイヤモンドを一周し、激闘が終わった。

7回表飯塚二死一、二塁 嶋田の左中間二塁打で一塁から生還した白浜(左)は吉村、中嶋(右)とハイタッチを交わす

飯塚にとっては昨夏の西日本短大附戦に続く準決勝での悪夢となったが、この試合にかける思いは十分に伝わって来た。特に目を引いたのは白浜。初回足元を抜けていこうかという木竹の当たりに対し、咄嗟に右足を出して止めようとした(足に当たり大きく跳ねてレフト方面に抜けていくタイムリーに)。さらに続くピンチでは小野原のピッチャー返しを右手ではじき落として、一塁でアウトにした。いずれもケガと隣り合わせのプレーだったが、勝利への執念を見た気がした。

打者としても三度出塁すると、一塁ではけん制球に何度も頭から帰塁。ユニフォームを泥だらけにしながらマウンドに登った。6回には先頭打者として二盗を決めると、さらに三盗も決め、福田の犠牲フライで貴重な追加点となるホームを踏んだ。降板後もベンチ最前列で仲間を鼓舞、その声に応えるように、ここまで出場機会のなかった選手たちが土壇場で活躍を見せた。

それでも、前年の雪辱に燃える飯塚ナインの執念を、今夏を最後に勇退を表明している江口監督と共に甲子園を目指す筑陽学園の強い気持ちが最後の最後に、ほんの少しだけ上回った。

 

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