2018選手権 南・北福岡大会を振り返る




 初めて福岡から2校代表を輩出した100回目の選手権福岡大会は、折尾愛真と沖学園が春夏通じて初出場を成し遂げ、新たな歴史を刻んで幕を閉じました。南北に別れて開催されたこともあり、あっという間に終わった感のある今年の福岡大会を振り返っておきたいと思います。

 まず今年は「打高投低」の傾向が顕著でした。北福岡は折尾愛真や飯塚、南福岡は沖学園や久留米商などに象徴されるように、多少の失点は覚悟のうえで、それ以上の得点を取って勝つ攻撃的な野球を目指すチームが目立ちました。無死一塁の場面でも送らず、強攻やヒットエンド・ランでチャンス拡大を狙う攻撃も珍しくなくなりました。
 その影響もあるのでしょう、こうしたチームを中心にユニフォームがはちきれんばかりの大きな体をした選手が増えました。「体づくり」の意識が広く浸透し、体格はここ数年で全体的に大型化しているのを感じます。
 こうした打力重視の取り組みは、結果にも表れています。昨年の県大会初戦(5回戦)8試合を見ると、勝利校の合計得点が44、敗退校の合計得点が18で、1試合平均にすると「5.5対2.25」でした。ところが今年の南北福岡大会の準々決勝(例年の県大会初戦に該当)8試合では勝利校の合計得点が67、敗退校では29となり、1試合平均で「8.37対3.62」と大きく上がっています。
 ここ数十年の福岡は、のちにプロに進むような優れた投手を輩出してきた一方で、打撃面では全国上位レベルとは少し差がある印象でした。それが打撃面においても各校の意識が変化。3連覇した九州国際大付、昨夏・秋を制した東筑など打力のあるチームが台頭するようになり、甲子園でも互角に打ち合うなど、打力重視の流れが進んでいると感じます。

【北福岡大会】
 優勝候補の東筑、九州国際大付がいずれも2回戦で敗退。東筑は、140キロ超の直球をコンスタントに投げる北九州の渡辺投手に2安打で抑えられる完敗でした。渡辺が140キロを超えるようになったのは5月ということですから、夏の大会直前の5~6月に選手は大きく伸びることも改めて感じました。
 九州国際大付は、4-0からの9回逆転負け。昨夏の東海大福岡も折尾愛真に5点差をひっくり返されて逆転サヨナラ負けを喫しましたが、共に投手が「勝ちを意識して投げ急いだ」のが敗因とされています。甲子園や九州大会を経験している選手たちにも「早く終わらせたい」気持ちにさせるのが、夏の大会なのでしょう。東筑は和久田、江藤、手嶋、藤原など甲子園を経験した野手が残り、九州国際大付もエース下村、中軸の葛城らは2年生。秋も有力校となってきそうです。
 シード校では八幡、光陵も2回戦で敗退。共に点の取り合いに敗れました。八幡は主砲・須本を中心とする強力打線で春は福岡大会準優勝、招待試合でも広陵(広島)に打ち勝っていただけに、早すぎる敗退でした。結局、シード8校の半数が準々決勝に進めませんでした。
 好左腕・小堤投手を擁し秋ベスト8、春ベスト4の東筑紫学園は準々決勝で折尾愛真に打ち負けました。春の大会も含め、投手陣が打ち込まれても4番芝を中心とした打線が奮起して、何度も逆転勝ちを収めてきた同校の戦いぶりは印象に残るものでした。折尾愛真戦も1-6から1点差まで猛追、最後は力尽きましたが持ち味を十分に発揮しての敗戦でした。
 5年前に夏の甲子園に導いた赤嶺監督が復帰した自由ケ丘も準々決勝で北九州に敗退。主戦として活躍した2年生右腕の大庭投手を軸に、秋以降の巻き返しが注目されます。

 ノーシードでは鞍手竜徳がベスト8入り。近年力を付けている一校で、最後は小倉に完敗しましたが主力選手に2年生が多く、秋以降も台風の目となりそうです。小倉工は今年も打力を前面に押し出す戦いぶりでシード八幡を破り、敗れましたが飯塚とも激しい打ち合いを演じました。左腕樋口、1年生の4番久木田らが残り、新チームも期待できそうです。真颯館も2回戦で折尾愛真に打ち負けましたが、丸林、森田ら主力が残ります。投手陣が整備されれば秋も有力な一校となりそう。若松は4点差を9回に逆転し九州国際大付を撃破。いくら相手投手が勝ちを焦ったとはいえ、4点差を逆転できたのは実力があってこそ。ここ数年の同校の充実ぶりを物語っています。

 ベスト4に残ったのはシードの折尾愛真、飯塚に春の大会優勝の小倉、そして東筑を破った北九州でした。北九州は東筑の石田から見事な先制攻撃で主導権を握り、渡辺投手が11奪三振を奪って2安打完投。上位打線の積極的な打撃が見事でした。最後は折尾愛真の長打力に屈しましたが、荒牧、船越の1・2番コンビは2年生。新チームでは主軸としての活躍が期待されます。東筑や九州国際大付などのライバルが早々と姿を消す中で、62年ぶりの栄冠が期待された小倉も、頼みのエース河浦が飯塚打線に打ち込まれて涙を飲みました。河浦投手は準々決勝までほぼ一人で投げてきた疲れもあったか、飯塚戦では甘く入った球を捕えられてしまいました。

 決勝の折尾愛真―飯塚は「打高投低」の今大会を凝縮するような試合でした。上位打線の長打力で一気に得点を重ねる折尾愛真と、上位から下位まで万遍なくヒットを連ねて走者を還していく飯塚が激しく点の取り合いを展開しました。両校の合計得点21は福岡大会が独立して以来、決勝戦での最多タイ。折尾愛真の3本の鮮やかな本塁打の鮮やかな記憶とともに、記録にも残る試合となりました。

【南福岡大会】
 混戦が予想された中で、シード8校のうち5校が準々決勝へ。筑陽学園と東福岡、優勝候補と目された両校も勝ち残りましたが、その両校を準々決勝で破った九産大九州と沖学園が決勝で争うことになりました。その意味では、準々決勝の筑陽学園ー九産大九州、東福岡ー沖学園の2試合は今大会の行方を決めた大一番でした。
 筑陽学園は注目された左腕エース・大畑が不調で3分の1イニングしか登板せず、代わりに2年生の西、菅井がその穴を埋めてきました。準々決勝も西が好投したものの、昨秋準決勝で4本塁打を放った強力打線が九産大九州・村上を打てず、土壇場で二度追いつく粘りを見せましたが延長戦で米井が力尽きました。強打をうたわれた東福岡も沖学園と1点を争う試合を演じましたが、最後まで沖学園の斉藤を打ち崩すことができませんでした。ただ、両試合ともどちらに転んでもおかしくない展開で、紙一重の勝負でした。

 昨夏準優勝の福岡大大濠は昨秋以降、樺嶋や稲本などの甲子園経験者にパンチ力のある星子らを揃える打線に力がありましたが、課題は投手力でした。外野手を兼ねる西を主戦に据えて5月の福岡地区大会を制すると、今大会は1年生左腕の深浦に先発を託し、後半は西を投入して逃げ切るパターンでベスト4まで勝ち上がってきましたが、その継投が沖学園には通用しませんでした。それでも深浦に加えて準々決勝で本塁打を放った星子、溝田などが中心となる新チームは、優勝争いに加わるチームとなりそうです。
 久留米商も4試合連続2桁得点とその打力をいかんなく発揮しましたが、準々決勝の香椎戦では投手陣が持ちこたえられませんでした。沖学園に敗れた西日本短大附も含めて、打力がありながら投手陣の失点を挽回できずに敗れるケースも目立ちました。

 公立校の活躍は南福岡大会でも目立ちました。香椎は突出した選手はいませんでしたが、公立校らしい粘り強さに、伸び伸びとしたプレーで初の4強入りを果たしました。久留米商に打ち負けた春日、福岡大大濠に延長戦で敗れた福岡工、九産大九州に1点及ばなかった南筑などはシード校相手に互角の勝負を演じました。

 そうした混戦の大会で最後まで勝ち残ったのは、エース村上を中心に堅実な野球が持ち味の九産大九州と、粗削りながら思い切りのよい打撃で難敵を撃破してきた沖学園の2校でした。
 九産大九州は、安定感ある投球を見せてきた村上が決勝でも好投しましたが、頂点を掴むには打力がもう一つ足りませんでした。沖学園は勝負処での集中打、一気に畳みかける力が他校を上回っていました。主戦の斉藤は四死球や失点が決して少ないわけはありませんが、終わってみれば勝っている…そんな投手でした。直球は120キロ台ながら手元で微妙に変化する多彩な変化球で打ち取る投球スタイル同様「つかみどころのなさ」が魅力であり、投打とも、まだまだ伸びしろを感じさせるチームでした。


Pocket
LINEで送る

Be the first to comment

Leave a Reply

Your email address will not be published.


*